Amazonが、2005年から運営してきたクラウドソーシング型の労働市場「Amazon Mechanical Turk」を2026年9月30日で恒久的に閉鎖します。プログラムやサービスを定期的に評価した結果として決めた、というのが公式の説明です。AIが人間の仕事を肩代わりしていく流れが語られる一方で、そのAIを育てるための人力の仕組みのほうが先に店じまいすることになりました。
終了は9月30日、対象はMTurkだけではない
Mechanical Turk(MTurk)の公式サイトには、2026年9月30日をもってサービスを恒久的に閉鎖するという告知が掲載されています。閉鎖の対象はMTurk単体ではなく、SageMaker Ground TruthとAmazon Augmented AIにも及びます。9月30日以降、ラベリングジョブや人間によるレビューワークフローを作成する際に、Mechanical Turk Workerというワーカータイプを選べなくなります。学習データの人手アノテーションをAWS側で完結させる導線が、まとめて閉じるかたちです。
労働者と発注者に関わる期日
閉鎖の前後で押さえておくべき日付がいくつか公開されています。
HITの提出受付は9月30日で終了し、未提出のまま残ったHITは自動的に期限切れになります。発注者(Requester)は閉鎖後30日間、つまり10月30日までに完了したHITについて承認または却下ができ、何も操作しなければ自動承認されます。労働者へのボーナス付与も10月30日までです。前払いした残高がある発注者には、30日以内に全額返金される見込みとされています。
労働者(Worker)側は、支払い方法と送金スケジュールが設定済みかをワーカーポータルで確認しておくよう案内されています。承認済みのHITはこれまで通りのスケジュールで支払われ、税務関連の書類も従来の手順とスケジュールで配布されます。取引履歴の閲覧は2027年1月28日まで可能です。閉鎖当日にすべてが消えるわけではないものの、記録を手元に残しておきたい人は年内に動いておいたほうが安全です。
「人工的な人工知能」という看板の由来
サービス名の由来は、1769年にハンガリーの貴族ヴォルフガング・フォン・ケンペレンが作ったチェス自動人形「トルコ人」です。ターバンをかぶり毛皮の縁取りがついたローブをまとった等身大の木製人形で、ヨーロッパを巡業してベンジャミン・フランクリンやナポレオン・ボナパルトといった相手を翻弄しました。ケンペレンは箱の扉を開けて歯車やぜんまいを見せ、機械が自ら判断していると観客を納得させていましたが、実際には内部にチェスの名手が隠れていました。
Amazonはこの逸話をそのままサービス名に持ち込みました。創業者のジェフ・ベゾス氏は、MTurkを人工的な人工知能(artificial artificial intelligence)と表現しています。写真に人が写っているかどうかの判定のように、子どもでもできるのにコンピュータには難しい作業を、APIコールとほぼ同じ書き味で人間に投げるという発想です。公式ドキュメントに載っている擬似コードも、画像を読み込んでcallMechanicalTurk()を呼ぶだけ、という素っ気ないものでした。
1件数セントの仕事と、50万人を超えた労働者
MTurkで扱われる作業はHIT(Human Intelligence Task)と呼ばれ、データのラベル付け、音声や動画の書き起こし、アンケートへの回答といった細かい単位に分割されています。報酬は1件あたり数セント(数円程度)が中心です。Amazonによれば、ピーク時には50万人以上の労働者が参加していました。彼らはturkerと呼ばれます。
参加条件は18歳以上であることと、インターネットに接続できる機器を持っていることです。登録を受け付けている国と地域には日本、台湾、韓国、シンガポール、オーストラリアなども含まれており、報酬は米国の仮想銀行口座かAmazon.comのギフトカード残高に振り込まれる仕組みでした。
※1米ドル=159円換算(2026年8月26日時点)
AIに追い越され、データの品質も揺らいだ
データワーカーで、労働者支援団体Turkopticonのオーガナイザーでもあるクリスタ・パウロスキ氏は、MTurkが近年は衰退していたと述べています。AIモデルが急速に進歩する一方で、Scale AI、Mercor、Prolificといったデータ関連のスタートアップが相次いで参入し、モデル学習用の作業者を集めるようになりました。Amazon側がMTurkの改善に割く資源を減らしていくのと入れ替わりに、turkerたちが競合プラットフォームへ移っていったというのがパウロスキ氏の見立てです。
皮肉なのは、品質の面でもAIが影を落としていた点です。2023年にスイスの研究者が発表した調査では、MTurkの労働者のうち最大46パーセントが作業にAIモデルを使っていたと推定されました。人間の判断を買うための市場に、AIの出力が混ざり込んでいたことになります。人力であることが商品価値だったサービスとしては、これは看板の根っこが揺らぐ話です。
Amazonは7月の時点で新規顧客の受け付けを停止しており、多くの労働者はこれを終了の予兆と受け止めていました。それでも保険や旅行の分野にはMTurkのデータ作業に依存している企業が残っており、代替プラットフォーム探しに追われているといいます。Amazonの広報担当モンタナ・マクラクラン氏は、AmazonとAWSのすべての顧客に可能な限り最良の体験を届けることに注力している、とコメントしています。
まとめ
Amazon Mechanical Turkは2026年9月30日に閉鎖され、SageMaker Ground TruthとAmazon Augmented AIも同時に終了します。発注者は10月30日まで承認とボーナス付与ができ、取引履歴は2027年1月28日まで参照可能です。AIの学習を支えてきた人力の市場が、そのAIの進歩と専業スタートアップの台頭に押されて21年で幕を下ろすことになります。人工的な人工知能という名前が、最後に少し違う響きを帯びて聞こえますね。
