Anthropicが最上位モデルの新版として「Claude Fable 5.1」と「Claude Mythos 5.1」を公開しました。2つは中身が同じモデルで、安全策の強さだけが異なります。今回はコーディングと長時間タスクの性能を上げつつ、価格・データ保持・セーフガードという、利用者から不満が集まりやすい3点にまとめて手を入れてきたのが特徴です。

中身は同じ、違うのは安全策の強さ

Fable 5.1とMythos 5.1は、同一のモデルに異なるレベルのセーフガードをかけたものです。Fable 5.1は一般提供され、Mythos 5.1は審査を通った利用者だけが使えるトラステッドアクセスプログラム経由に限られます。Mythos側のセーフガードは、サイバーセキュリティとライフサイエンスの実務を想定して設計されています。

Mythos 5.1へのアクセス経路は2つ用意されました。防御目的のセキュリティ業務向けのCyber Verification Program(CVP)と、ライフサイエンスの専門家向けのLife Sciences Verification Program(LSVP)です。LSVPは米国政府との連携で組まれており、すでに最初の参加者の登録が済んでいます。コードベースを走査して脆弱性を見つけ、修正案を人間のレビューに回す同社の製品Claude Securityも、Mythos 5.1で動くようになりました。

エフォート設定を下げても前世代並みという設計

Fable 5.1は、コーディング、知識労働、長時間かかる問題解決を主戦場に据えたモデルです。同社の説明で目を引くのは、エフォート(推論にかける手間の設定)をLowやMediumに落としても前世代のFable 5と同等かそれ以上の結果になり、Highに上げれば大きく上回る、という性能の出し方です。既定値はClaude CodeがHigh、Claude CoworkとClaude.aiがMediumに設定されています。

同社は、その場しのぎの回避策で片づけずに不具合の根本原因まで踏み込む点を強調しています。例として挙がっているのが投資会社Millenniumでの検証で、社内システムでまれに起きるクラッシュの原因を、数年かけて自社のエンジニアも他社のモデルも説明できずにいたところ、Fable 5.1が突き止めたという話です。

値下げの正体はキャッシュ読み込みの単価

価格面では、トークン課金の一般的なワークロードでFable 5からおよそ25パーセント安くなります。値下げの中身は、すでに処理して保存済みの入力を読み直す「キャッシュリード」の単価を下げたことです。そのため、同じ文脈を何度も読み返すエージェント的な使い方ほど恩恵が大きく、削減幅は最大でおよそ45パーセントに達するとされています。

データ保持についても新しい枠組みが用意されました。Enterprise Frontier Safeguards(EFS)は、データをAnthropic側ではなく顧客が管理するクラウド基盤に置く仕組みで、人的レビューが必要になった場合も既定では顧客自身が行います。ゼロデータ保持と同じプライバシー水準を保ちながら、悪用の検知は続けられるという狙いです。金融、医療、製造、通信、法務、小売、公共など100社を超える顧客と、Amazon Web Services、Google Cloud、Microsoft Azureの各クラウド事業者と共同で設計されました。提供は今秋から段階的に始まり、EFSが行き渡るまでの間、対象顧客はゼロデータ保持のままFable 5.1を使えます。

誤検知を減らす方向へ舵を切ったセーフガード

セーフガードは、締め付けを強めるのではなく精度を上げる方向で調整されています。サイバーセキュリティ領域では、無害な内容を弾いてしまう誤検知が従来より60パーセント減りました。背景には、Fable 5.1にソフトウェアの脆弱性を発見する用途を解禁したことがあります。ただしその脆弱性を突く攻撃コードの作成は引き続き対象外で、ペネトレーションテストやエクスプロイト生成、バイナリベースの脆弱性スキャンといった両義的な作業はOpus系モデルへ振り分けられます。

生物学の領域では、初等的な生物学や医療に関する無害な質問に対してセーフガードが作動する頻度が、Fable 5の提供開始時点と比べて85パーセント減っています。一方で、ライフサイエンスの研究開発に踏み込む質問は従来どおりOpus系へ回されます。

タンパク質設計と金星の地形図

今回のリリースで同社が特に前に出しているのが、科学研究での実例です。

分子設計では、Mythos 5.1にオープンソースのタンパク質設計・折り畳み予測ツールを使わせ、生成した設計を外部2機関で実験検証しました。3つの標的で、Adaptyv Bioのタンパク質設計コンペに提出された最良の設計と比べて結合親和性が10倍高く、12標的にわたる的中率はおよそ50パーセントに達しています。この分野の的中率は通常10から15パーセント程度とされており、その3倍以上にあたる水準です。

計算解析の例として挙がっているのが金星の標高地図です。Fable 5.1がニューラルネットワークを学習させ、30年以上前のNASAマゼラン探査機のレーダー画像と、金星の5分の1について既にあった地図をもとに、惑星の3分の1をカバーする高解像度の標高地図を新たに作りました。解像度は従来の10から20キロメートルから2から3キロメートルまで細かくなり、高さの精度も最大25パーセント向上しています。この地図はクリエイティブ・コモンズライセンスで公開され、今後のNASA VERITASとESA EnVisionの観測対象選定に役立つことを見込んでいます。

計算生物学では、Mythos 5.1がGPU向けのカスタムカーネルを書き、中間結果をキャッシュすることで、7つのオープンソース深層学習モデルを出力を変えずに最大2.5倍高速化しました。この種の解析ではモデルを何千回も回すため、推定GPUコストは30から60パーセント削減される計算です。通常なら性能エンジニアのチームが数週間かける作業を、公開されているソースコードだけで数日でこなした形で、この最適化も近く公開される予定です。

蒸留対策とEU AI Actへの対応

Fable 5.1では、モデルの能力を抜き取る蒸留への対策も強化されました。具体的には、今回の発表日以降に新規作成されたAPIアカウントについて、複数ターンの会話でClaudeの過去の思考ログを保ったまま直前の文脈を手で書き換えることができなくなります。公開情報として知られていた蒸留手法を塞ぐ変更で、既存アカウントは当面影響を受けませんが、今後のモデルリリースでは全利用者に適用されます。

EU AI Actへの対応も進みました。Anthropicは2026年7月に、AI生成コンテンツの透明性に関する行動規範へ他の190の署名者とともに署名しています。これにより、2026年8月2日以降にリリースされたモデルの出力には、Claudeが書いたかどうかを数値的に判定できる透かしが入ります。透かしは検出APIを持たない人には見えず、出力の品質や内容には影響せず、利用者や組織、会話の情報も含みません。検出APIはプライベートプレビューとして、規制当局や報道機関、ファクトチェッカー、研究者、教育機関などの適格な組織に提供が始まっています。

まとめ

Claude Fable 5.1は、性能を上げるだけでなく、価格・データ保持・誤検知という運用上の摩擦をまとめて削りに来た更新です。キャッシュリードの値下げでエージェント的な使い方ほど安くなる構造は、実際の請求額に効いてきそうです。科学研究の成果として示されたタンパク質設計や金星の標高地図は、いずれも同社自身の発表に基づく数字ではあるものの、外部機関での実験検証や公開ライセンスでの地図配布まで踏み込んでおり、検証可能な形で出してきた点は評価できます。

※サムネイル画像はAI生成のイメージです