Ankerのオーディオブランドsoundcoreが2026年9月3日、ベルリンで開かれたIFA 2026に合わせて新製品9機種を発表しました。柱は2つあります。1つは自社開発のAIオーディオチップ「THUS(サス)」を、オープンイヤー、オーバーイヤー、カナル型の4機種に広げたこと。もう1つは睡眠向けのイヤホン2機種と、同ブランド初となるベッドサイド用スピーカー2機種を加えたことです。あわせて、THUSを積んだOTC(市販型)補聴器を年内に投入する計画も明らかにしました。米国では9月22日から順次発売され、日本での展開は現時点で発表されていません。

THUSチップは5月のLiberty 5 Proから半年で4機種に拡大

THUSは、Ankerが2026年5月にニューヨークで開いた発表会でお披露目したイヤホン向けのAIチップです。メモリの中で演算を行うCIM(Compute-in-Memory)構造を採り、データをメモリとプロセッサの間で往復させる電力を省くことで、小さなバッテリーのまま高いAI処理性能を出すというのが売りでした。最初に搭載されたのはカナル型の「Liberty 5 Pro」と「Liberty 5 Pro Max」の2機種です。

今回の発表で、THUSはそこから形状の異なる4機種に広がりました。耳に挟むクリップ型の「AeroClip 2 Pro」と「AeroClip 2」、ヘッドホンの「Space 2 Pro」、そしてカナル型の「Liberty Buds 2」です。共通するのは、通話時に自分の声だけを周囲の騒音から切り出す処理と、環境に合わせて効き方を変えるノイズコントロールをチップ側で担う点です。Ankerは形状ごとに用途を分けつつ、通話品質という同じ土俵で4機種を並べた形になります。

AeroClip 2 Pro:クリップ型イヤホンが会議の議事録係になる

4機種のなかで最も性格がはっきりしているのがAeroClip 2 Proです。オープンイヤーのクリップ型イヤホンとしては初めて、本体に会話の記録機能を組み込みました。イヤホンをワンタップすると録音が始まり、対面の打ち合わせでもオンライン会議でも、その場の音声を残せます。電話の場合は、自分と相手の両方の声をまとめて記録できます。

録音したデータはsoundcoreアプリでスマートフォンやタブレットに移し、そこからLLM(大規模言語モデル)に渡して要約を作る流れです。要約には複数のテンプレートが用意され、翌日でも半年後でも、過去の会議から必要な箇所を検索して取り出せるとしています。イヤホン自体が文字起こしまで行うわけではなく、記録はイヤホン、整理はアプリとAIという分担です。

通話性能は、Liberty 5 Proと同じくTHUSが受け持ちます。マイクはS/N比の高いものを4基、骨伝導センサーを2基組み合わせた計6センサー構成で、騒がしい場所でも声だけを拾い出す設計です。音の面では11mmのデュアルダイアフラム駆動ユニットを載せ、ハイレゾ対応のLDACコーデックにも対応しました。耳を塞がない構造なので、周囲の音を聞きながら1日着けていられることを想定しています。

バッテリーは音量50パーセントで本体10時間、ケース込みで合計30時間です。ケースに10分入れると最長3時間ぶん充電できます。米国、英国、EUで複数色を展開する予定ですが、発売時期と価格は後日の発表とされています。

AeroClip 2:通訳機能を持つ第2世代クリップ型、9月22日の週に発売

同時に発表された第2世代の「AeroClip 2」は、記録機能を省いた代わりに、THUSによる通話時の音声分離とリアルタイムのAI翻訳を備えたモデルです。翻訳はAppleのMFi認証を取得しており、iOSでは1回のタップで呼び出せます。

装着感については、2,000人分の耳の形状データを使ってクリップの張力と形を検証したとしています。駆動ユニットは12mmのダイナミック型でLDACに対応し、再生時間は本体8時間、ケース込みで32時間です。

カラーは発売時点でミッドナイトブラック、レッド、クラウドホワイト、ミストブルーの4色で、追加色は後日発表されます。価格は米国で169.99ドル(約2万6,500円)、英国で159.99ポンド(約3万3,800円)、ドイツをはじめとするEUで179.99ユーロ(約3万2,600円)です。9月22日の週からAmazon.comとsoundcore.comで販売が始まります。

Space 2 Pro:8マイクのANCと35mm駆動ユニットで199.99ドル

ヘッドホンの「Space 2 Pro」は、既存モデルSpace One Proの後継にあたります。THUSと6基のマイクを組み合わせ、最大100dBの騒音下でも自分の声を分離するとしています。Ankerが例に挙げるのは、工事現場の削岩機のそばを歩いている場面や、車のクラクション、緊急車両のサイレン、にぎやかなバーやオフィスといった状況です。

ノイズキャンセリングは8マイク構成のアダプティブ型で、384kHzで処理を行い、オフィスでの話し声やキーボードの打鍵音、空調のうなりを狙って抑えます。駆動ユニットは35mmの2素材リジッドフレックス型で、聴力に合わせて音を補正するHearID 5.0とLDACに対応します。

再生時間はANCオフで60時間、オンで30時間(いずれも音量50パーセント)です。イヤーパッドは低反発素材で、Bluetooth 6.1、2台同時接続のマルチポイント、空間オーディオにも対応しました。カラーはミッドナイトグレー、リネンホワイト、ジェットブラックの3色で、米国では9月22日から199.99ドル(約3万1,200円)で発売されます。英国とEUの価格と時期は後日発表です。

Liberty Buds 2:ANC性能を前モデルの2倍に、129.99ドルから

カナル型の「Liberty Buds 2」は、THUSに加えて2基の音声処理ユニットを含む8センサー構成を採り、あらゆる環境で通話相手に声をはっきり届けることを狙ったモデルです。ノイズキャンセリングは6マイク構成で、前モデルの2倍の低減量をうたいます。ANC特有の耳の圧迫感を抑える「Comfort ANC」モードも用意しました。設計と装着感については、ドイツの第三者認証機関TÜVの認証を受けています。

カラーはミスティパープル、グロッシーブラック、シルバーホワイトの3色です。価格は米国で129.99ドル(約2万300円)、英国で129.99ポンド(約2万7,400円)、ドイツとEUで149.99ユーロ(約2万7,100円)で、9月22日からAmazon.comとsoundcore.comで販売されます。

年内にOTC補聴器へ参入、5分の充電で2時間

Ankerは今回、THUSを搭載したOTC補聴器を2026年内に発売する計画も明かしました。OTC補聴器は米国で2022年に制度化された、処方箋なしで店頭やオンラインで買える区分の製品です。Ankerが解決したい課題として挙げるのは、混み合ったレストランや親族の集まりで「聞きたい声だけが聞き取れない」という補聴器利用者の悩みです。

従来型の補聴器が周囲の音をまとめて増幅しがちなのに対し、この製品は毎秒72億回の演算を行うTHUSと4基のビームフォーミングマイクで、目的の声に焦点を合わせ、背景の雑音を後ろに下げるアプローチを取ります。充電器メーカーとしての蓄積を生かし、本体12時間、ケース込みで36時間の使用を見込み、5分の充電で2時間ぶんを補える急速充電も備える予定です。価格と発売時期は数か月以内に発表されます。

睡眠ラインは4機種に:心拍を測るイヤホンとレーダー内蔵スピーカー

もう1つの柱である睡眠向け製品は、イヤホン2機種とスピーカー2機種の構成です。

上位の「Sleep Earbuds 4 Pro」は、耳の中で高頻度のPPG(光電式容積脈波)計測を行い、心拍数と心拍変動(HRV)から入眠までのリラックス度合いと睡眠の段階を一晩を通して追いかけます。多くの睡眠トラッカーが朝になってから結果を見せるのに対し、夜間のデータをもとに「BioSync」機能で落ち着く音をその場で変えていくのが特徴です。充電ケースはワイヤレス充電に対応し、AMOLEDの画面を内蔵しました。この画面から音や睡眠設定の変更、アラームの設定、毎朝の睡眠レポートの確認ができます。睡眠向けに調整したノイズ低減と、いびきの音に合わせて変化するマスキング音も備えます。カラーはルナーホワイトとミストブルーの2色で、米国では11月に349ドル(約5万4,400円)で発売予定です。英国とEUは後日発表となります。

標準モデルの「Sleep Earbuds 4」は、既存モデルSleep A30の後継です。AIが生成するマスキング音を実際のいびきのパターンに合わせて動かす仕組みを取り入れ、1万人以上の耳のデータをもとに本体をA30より20パーセント薄くしました。横向きに寝たときの圧迫感を減らすのが狙いです。カラーは発売時にムーンリットホワイトとヘイズブルーの2色、ベアピンクは後日追加されます。価格は米国229ドル(約3万5,700円)、英国229ポンド(約4万8,300円)、ドイツとEUで229ユーロ(約4万1,400円)で、10月にAmazonとsoundcoreの公式サイトで販売されます。

スピーカーの「SleepLab Pro」は、身に着けるものを一切使わずに睡眠を測る発想の製品です。60GHz帯のミリ波レーダーで体に触れずに睡眠サイクルを感知し、その人に合わせた「スリープサウンドトラック」と照明の変化で入眠を促します。呼吸法のガイド、音響ビート、毎日の睡眠レポートに加え、2基の駆動ユニットによる空間オーディオ、寝室向けの多色アンビエント照明、朝日を模した光でゆっくり目を覚まさせる機能を備えます。

下位の「SleepLab」は計測機能を省き、音楽やポッドキャストのほか180種類以上のホワイトノイズや呼吸音を、スマートフォンを使わずワンタップで流せる製品です。2基のスピーカーによる空間サウンド、音に合わせて変化する暖色系の照明、朝日を模した光と徐々に大きくなるアラーム、停電時のバッテリーバックアップを備えます。両機種とも発売時期と価格は後日発表です。

まとめ

Ankerのsoundcoreは、5月に登場したAIチップTHUSを半年足らずでクリップ型、ヘッドホン、カナル型の4機種へ横展開し、さらにOTC補聴器という新分野にも同じチップで踏み込む姿勢を示しました。会議の記録役を担うAeroClip 2 Proのように、通話品質だけでなく「録る・要約する」領域までイヤホンの役割を広げている点が今回の特徴です。睡眠分野ではイヤホンとスピーカーの両面から4機種を並べ、着けたくない人にはレーダー内蔵スピーカーという選択肢を用意しました。米国では9月22日にSpace 2 Pro、Liberty Buds 2、AeroClip 2が先陣を切ります。日本での発売は未発表のため、続報を待ちたいところです。

※為替レート(2026年9月5日時点):1米ドル=156円、1ユーロ=181円、1英ポンド=211円