AMDがラック単位で組み上げるAI計算システム「Helios」の出荷準備に入りました。年内には顧客への引き渡しが始まる見込みで、7月20日にはMicrosoftがAzureのデータセンターで採用すると明らかにしています。すでにMeta、OpenAI、Oracleが導入を決めており、NVIDIAがほぼ独占してきたラック型AIシステムの市場に、初めて本格的な対抗馬が現れた形です。

部品売りから「1本まるごと」への転換

これまでAI向けの半導体ビジネスは、GPU、CPU、ネットワークチップ、ソフトウェアをそれぞれ別々に売る形が中心でした。Heliosが違うのは、その4つをAMDが自社で揃え、電源や冷却まで含めて1つのラックとして設計している点です。

中身を分解すると、計算を担うトレイが18段あり、1段ごとにInstinct MI455X アクセラレータが4基と、第6世代のEPYC(開発コード名Venice)が1基載ります。ラック1本あたりのGPUは合計72基。トレイには最大12個のネットワークチップも収まり、これは2022年に買収したPensandoの技術が使われています。ソフトウェア側はNVIDIAのCUDAに対抗する自社のROCmが担当します。

Heliosという名前は、4頭の馬に太陽を引かせるギリシャ神話の神に由来します。GPU、CPU、ネットワーク、ソフトの4本柱で走らせるという、そのままの意味づけです。

大きく、重く、そして高い

もっとも、NVIDIAの第2世代ラックであるVera Rubinと比べると、Heliosは横幅も重量も上回ります。重さは最大で約7,000ポンド、日本の感覚に直すと3トンを超える計算です。設置する側にとっては床の耐荷重から考え直す必要がある水準といえます。

価格についてAMDは公表していませんが、調査会社Futurum Groupは1本あたり500万ドルから550万ドル(約8億1,000万円〜8億9,000万円)と見積もっています。同社の推計ではVera Rubinが350万ドルから400万ドル(約5億7,000万円〜6億5,000万円)なので、初期費用ではAMDのほうが高くつきます。

※1ドル162円換算(2026年7月20日時点)

それでもAMDが押しているのは、トークン1つあたりのコストと総保有コストです。データセンター部門を率いるForrest Norrod氏は、そこに最も注力しており顧客からも手応えを得ていると説明しています。単価ではなく、動かし続けたときの経済性で勝負するという立て付けです。CEOのLisa Su氏も5月の時点で、推論処理とメモリ帯域・容量の面で優位性があると述べていました。

Azureが選んだ理由と、その先

Microsoftは今回、HeliosをAzureの基盤に組み込み、自社および顧客向けのフロンティアモデルの推論と、Azure AIサービスの下支えに使うとしています。あわせて、Venice世代のEPYCを使った新しいインスタンスも2種類用意します。1つはエージェント型AIとデータ処理向け、もう1つは半導体設計向けという構成です。顧客に届くのは2026年後半から2027年初頭にかけての見込みです。

AMDとMicrosoftの付き合いは長く、SurfaceやXboxにはAMDのチップが使われてきました。2023年にはMI300Xを最初に採用したのもMicrosoftです。同社は自社開発のMaiaチップも並行して回しており、今回の採用は「NVIDIAからの乗り換え」というより、選択肢を複数持っておく動きに近いと見るのが自然でしょう。

顧客の広がりも早く、AMDは上位10社のAI企業のうち8社が同社のInstinct GPUでワークロードを動かしていると説明しています。Metaは2月に、長期的に最大6ギガワット分のAMD製GPUを使う方針を示し、その第一歩として年内に1ギガワット分をHeliosラックで立ち上げる計画です。インド最大のIT企業であるTata Consultancy Servicesも導入を決めています。

シェア4.5パーセントからの反撃

Futurum Groupによれば、データセンター向けGPU市場でNVIDIAは95パーセント超を握り、AMDの取り分は4.5パーセント程度にとどまります。ただ同社アナリストのDaniel Newman氏は、AMDが20パーセントから25パーセントまで届く展開も十分あり得るとし、その規模は数千億ドル単位の売上になると見ています。

AMD側の見通しも強気で、2027年からはデータセンターAI事業で数百億ドル規模の受注を積み上げ、その大半をHeliosが占めると説明しています。2026年第1四半期の時点で、すでに売上の過半をデータセンター部門が占め、前年同期比で57パーセント伸びました。

一方で、慎重な見方も残ります。Counterpoint ResearchのNeil Shah氏は、チップ単体の性能ではNVIDIAと肩を並べているとしつつ、勝負を分けるのはソフトウェアと最適化であり、CUDAの生態系はまだ先行していると指摘します。Newman氏も、AMDが伸びる理由が技術的な優位なのか、単にGPUの供給が逼迫していて作れば売れる状態だからなのかは、まだ判断がつかないとしています。

AMDにとっては、EPYCで築いたサーバーCPUの信頼をAI側にどこまで持ち込めるかが焦点です。データセンター向けCPUではIntelが依然として首位ですが、AMDは着実にシェアを削ってきました。同じことをGPU側で再現できるかどうかが、Heliosの初期導入の成否にかかっています。

まとめ

AMDが初のラック型AIシステム「Helios」を年内に出荷し、MicrosoftがAzureで大規模に採用します。72基のInstinct MI455XとVenice世代のEPYC、Pensandoのネットワーク、ROCmを1本のラックに統合した構成で、価格はNVIDIAのVera Rubinを上回るとみられる一方、AMDはトークンあたりのコストで優位に立てると主張しています。GPU市場のシェアは4.5パーセント程度ですが、Meta、OpenAI、Oracleに続いてMicrosoftが加わったことで、NVIDIA一強の構図が動くかどうかが2027年にかけての見どころになります。