Universal Music GroupとElevenLabsが9月10日、複数年にわたるライセンス契約と戦略的な協業で合意したと発表しました。第一弾として、参加を選んだアーティストの楽曲をファンがリミックスしたり、別の解釈で作り直したりできるAI音楽制作プラットフォームを立ち上げます。ElevenLabsにとっては、メジャーレーベルと結ぶ初めての契約です。
訴訟の後始末ではない契約
ここ数年、AIと音楽をめぐる大型の合意は、たいてい訴訟の決着とセットで語られてきました。Universal Music Group自身、2025年10月にUdioとの著作権侵害訴訟を和解させ、同時に楽曲の制作から視聴までを扱う新しいサービスを共同で立ち上げる契約を結んでいます。和解金に加えて録音物と出版の両方でライセンスを結び直すという形で、争いの解決と事業の開始が一体になっていました。
ElevenLabsの場合は順番が違います。同社は2025年8月に音楽生成モデルを公開した時点で、独立系レーベルを束ねるMerlinと、出版管理を手がけるKobaltからライセンスを取得済みでした。権利者と先に合意してから製品を出すという進め方をとってきたため、今回のメジャーレーベルとの契約も、既存路線の延長として置かれています。AI音楽の分野では、この順序自体が珍しいものになっています。
ファンが作る側に回る場所
新しいプラットフォームはElevenLabsが運営主体となり、現在は開発段階にあります。両社の説明によれば、ファンができるのは大きく3種類です。既存曲のリミックスとマッシュアップ、原曲を別の形に組み直す新しい解釈、そして自分に合わせたボーカル体験を作ることです。
重要なのは、対象が参加を選んだアーティストと作家の楽曲に限られる点です。カタログを丸ごと素材として開放するのではなく、権利者の意思表示を前提に置いています。Universal Music Group会長兼最高経営責任者のSir Lucian Grainge氏は、責任あるAIは発見を促し、アーティストとファンの結び付きを深め、創作に携わる人々に新しい収益機会をもたらすという考え方を示しました。ElevenLabs共同創業者兼最高経営責任者のMati Staniszewski氏も、同社のモデルとUniversal Music Groupの権利管理の知見を組み合わせることで、アーティストと作家が正当に報われる仕組みにすると述べています。
ファンによる二次創作は、これまで権利処理の外側で膨大に発生してきた領域です。そこに公式の場を用意し、再生や利用の対価を権利者に戻す導線を作るという意味では、投稿型サービスが歩んできた道筋をAI生成に引き直す試みとも読めます。
既存の音楽プロダクトとは線を引く
ElevenLabsはすでに2つの音楽プロダクトを持っています。ひとつはMusic APIで、音楽テクノロジーやメディア、ソーシャルメディアなどの事業者や開発者が組み込んで使う想定のものです。もうひとつはElevenMusicで、ボーカルや楽器構成、スタイル、アレンジを指定しながらオリジナル曲を作るアプリにあたります。
今回の新プラットフォームは、これらとは別に提供されると明言されています。ゼロから曲を作る既存製品と、権利者の許諾を受けた実在の楽曲を素材にする新サービスを混ぜないという整理です。生成物の出どころをはっきり分けておく設計は、後々の権利処理を考えるうえで現実的な判断だと言えます。
提携を重ねるUniversal Music Group
Universal Music GroupのAI関連の動きは、今回が突発的なものではありません。2026年1月にはNVIDIAとの協業を公表し、音楽向けのモデルであるMusic Flamingoを発見機能のために拡張する計画や、Abbey Road StudiosやCapitol Studiosといった自社スタジオを使った制作実験、アーティストが実際の制作現場で新しいツールを試すインキュベーターの設置を掲げています。Udioとの発表資料では、YouTube、TikTok、Meta、KDDIなどとAIに関する契約を結んできた実績にも触れられていました。
今回の契約でも、ファン向けプラットフォームだけで終わる話にはなっていません。両社はアーティストと作家に向けたAIオーディオ製品を共同開発し、ファン向けの体験もさらに増やしていくとしています。レーベルが権利を守る側から、AI企業と組んで使い道を設計する側へ軸足を移している流れが、あらためて確認できる内容です。
一方で、肝心のプラットフォームは開始時期も料金も公表されていません。どのアーティストが参加するのか、生成された楽曲がどこまで外部で共有できるのか、収益の分け方がどうなるのかといった、実際に使う段階で効いてくる条件はこれからです。仕組みの善し悪しは、そのあたりが見えてから判断することになります。
まとめ
Universal Music GroupとElevenLabsは、複数年のライセンス契約と戦略的な協業で合意し、参加アーティストの楽曲をファンがリミックスできるAI音楽プラットフォームを立ち上げます。ElevenLabsにとって初のメジャーレーベル契約であり、訴訟を経ずに結ばれた点が従来の事例と異なります。既存のMusic APIやElevenMusicとは別サービスとして提供され、今後はアーティスト向けのAIオーディオ製品も共同で開発される予定です。公開時期や参加アーティストの顔ぶれは、今後の発表を待つ段階にあります。
※サムネイル画像はAI生成のイメージです
