汎用AIエージェントを手がけるManusが、独立した企業としての運営を正式に再開しました。2025年12月にMetaがおよそ20億ドルで買収した会社ですが、中国の対外投資審査当局が取引の取り消しを命じ、統合作業は途中で解体されました。買収から独立回帰までの一連の流れは、中国発のAIスタートアップが海外の資本と結びつく際の制約をあらためて示すものになっています。
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創業チームが「独立したエージェント研究所」として再出発
Manusは9月1日、創業チームが引き続き経営にあたる形で独立運営に戻ったと発表しました。共同創業者の肖弘氏と張涛氏、そしてチーフサイエンティストの季逸超氏が中心となり、これまで通り汎用AIエージェントの開発を続けます。会社としての位置づけは「独立したエージェント研究所」という表現に改められました。
Manusが作っているのは、指示を受けてから自分で計画を立て、Webを調べ、資料をまとめ、複数の工程をまたいで作業を完了させるタイプのエージェントです。対話するだけのチャットボットではなく、成果物を返してくるところが売りで、2025年3月の登場時にはその点が強く注目されました。
分離の過程では利用者側にも影響が出ています。Metaによる買収発表日である2025年12月29日以降に作成されたデータについて、Manusは一部の地域の利用者にバックアップを促していました。システムを切り離す作業の中で、その期間のデータの一部は削除されています。復元用の窓口は現在も開かれたままで、締め切りは示されていません。
5億ドルの評価額から20億ドルの買収、そして白紙へ
Manusの母体は北京で生まれたButterfly Effect(Monica)で、その後シンガポールに本社と主要な開発機能を移しました。2025年4月にはBenchmarkが主導する7,500万ドル(約120億円)の調達を実施し、当時の評価額はおよそ5億ドル(約800億円)でした。株主にはTencentやZhenFund、HSGの名前も並んでいます。
そこにMetaが現れます。2025年12月29日、Metaはおよそ20億ドル(約3,200億円)でManusを買収したと発表しました。Manusを単体のサービスとして残しつつ、エージェント技術をMeta AIやWhatsAppの法人向け機能に取り込む構想でした。評価額はわずか8カ月ほどで4倍に膨らんだことになります。
ところが2026年4月27日、中国の国家発展改革委員会に置かれた対外投資の安全審査の枠組みが、この投資を禁止し、取引の取り消しを命じます。理由として挙げられたのは中国の技術が外部へ移転することへの懸念でした。
6月には両社が実務レベルでの切り離しに入り、データ共有が止まり、Manusの従業員はMetaの社内システムを使えなくなりました。逆にMetaの従業員も社内業務でManusを使うことを禁じられています。8月にはManusが自社サイトからMetaの一員である旨の記述を削除し、今回の発表で分離が完了した形です。
本社の移転では規制を回避できなかった
この一件が業界に投げかけた問題は、Manus1社の話にとどまりません。中国で創業したスタートアップがシンガポールなどへ本社と中核機能を移せば、中国の枠組みから十分に距離を置いたとみなされ、欧米の資本を受け入れたり買収に応じたりできる、という前提が広く共有されていました。Manusの事例は、その前提が成り立たない場合があることを示しています。
さらに注意が必要なのは、取引が完了した後でも覆されうるという点です。買収の発表から4カ月を経てから停止命令が出され、実際に統合が始まっていた事業を引き剥がす作業が必要になりました。クロスボーダーのM&Aでは、米国側の審査を通過することがゴールとして語られがちですが、中国側にも後から取り消しを求める余地が残っているわけです。
投資家の視点で見れば、中国発の創業チームを抱えるエージェント企業にとって、米国の大手テック企業への売却という出口が事実上狭まったことになります。資金は太平洋の両側で、それぞれの国内で完結する形に流れやすくなるでしょう。
残された論点は資本構成
現時点で明らかにされていないのは、独立後の株主構成です。Metaが支払った対価がどう処理されたのか、以前の投資家が持ち分を取り戻したのか、あるいは新たな資金調達が行われるのかといった点について、Manusは具体的な説明をしていません。
製品面では、これまで通り汎用エージェントの開発を続ける方針が示されています。エージェント分野は競合が急速に増えており、独立して資金を確保しながら開発速度を維持できるかどうかが、今後の分かれ目になりそうです。
まとめ
Manusは9月1日、独立運営への復帰を正式に発表しました。Metaによる約20億ドルの買収は中国の審査当局によって取り消され、およそ4カ月をかけて統合が解体された末の結論です。創業チームが引き続き経営を担い、汎用AIエージェントの開発を続けます。本社を国外へ移しても中国の投資審査は及ぶこと、そして取引成立後でも覆されうることを示した事例として、クロスボーダーのAI買収に影響を残しそうです。
