米国防総省が2026年8月31日、省内向けの生成AI基盤「GenAI.mil」でOpenAIの「ChatGPT Mil」の提供を始めました。同じ日にStarshield AIの「Grok for Government」も加わり、先行していたGoogleのGeminiと合わせて複数の基盤モデルを使い分けられる環境になります。対象は機密指定のない管理対象情報を扱う日常業務で、想定利用者は300万人を超えます。

「機密ではないが守るべき情報」を扱えるようにした

ChatGPT Milがカバーするのは CUI(Controlled Unclassified Information、管理対象非機密情報)です。機密指定は受けていないものの、取り扱いに一定の保護措置が求められる政府情報を指します。国防総省は、ChatGPT Mil がこの CUI を Impact Level 5(IL5)の水準で認定されたと説明しています。IL5 はクラウドの安全性を段階分けした国防総省の基準で、機微な非機密情報を扱える上位の区分にあたります。

提供開始時点で使えるのはチャット、ファイル、プロジェクト、カスタムGPTの4機能で、以降も順次追加される見込みです。想定されている作業は、計画立案、方針文書の作成、兵站、事務処理といった文書量の多い分野です。OpenAI 側は具体例として、災害対応の計画づくり、資源の配分、補給と整備の情報のつき合わせ、輸送要件の草案づくりなどを挙げています。

データの扱いについては、GenAI.mil 上で処理した内容は政府環境の中に隔離され、一般向けや商用のモデルの学習・改善には使わないとしています。海軍の運用指針では、CUI の利用は認めつつ、個人を特定できる情報と保護対象の医療情報の入力は禁止されています。

9カ月で170万人、単一ベンダーに寄せない構え

GenAI.mil は2025年12月に立ち上がった基盤で、国防総省によれば固有の利用者はすでに170万人を超えました。省内の職員は300万人以上いるため、9カ月で半数強に届いた計算になります。

海軍と海兵隊では、すでに全体の要件として位置づけられています。2026年1月の通達で GenAI.mil が海軍省における CUI かつ IL5 の生成AI基盤に指定され、各組織と司令部に対して4月30日までの移行が指示されました。

同じ日に Grok for Government も載せた点は見逃せません。国防総省は追加の狙いを、特定ベンダーへの囲い込みを避け、米国内のAIエコシステムの裾野を広げることだと説明しています。担当者は、Gemini は検索的な使い方に向き、ChatGPT は文章中心の作業に向くとしており、用途ごとにモデルを選ばせる設計です。1つのモデルに省全体を委ねないという判断が、そのまま基盤の設計思想になっています。

6週間で作戦命令書を仕上げた事例

導入効果として省が挙げているのが、陸軍の第18空挺軍団の例です。2026年5月の議会証言によると、同軍団は GenAI.mil を使い、米南方軍の担当地域を対象とした演習用の作戦命令書一式を6週間で作成しました。従来はより大きな体制で6〜9カ月を要していた作業を、9人の書き手でまとめたとしています。

効いたのは文書を書く速さそのものより、下書きと確認の往復を圧縮できたことだと読めます。軍の文書は形式や参照関係が細かく、書式に沿って整えるだけでも時間を取られます。そこを機械に任せられれば、人は中身の判断に時間を回せます。

戦闘用途とは切り離されている

一方で、線引きははっきりしています。GenAI.mil はあくまで非機密業務向けの IL5 基盤であり、戦闘運用に向けて別途開発と試験が進む機密ネットワーク上のAIとは別物です。国防総省と OpenAI の双方とも、GenAI.mil 上のモデルを戦闘に使う想定はないとしています。

基盤モデルを GenAI.mil に載せるまでには、国防情報システム局と国家安全保障局が関わる安全性の試験を通す必要もあります。市販のモデルをそのまま持ち込めるわけではなく、審査を挟む建て付けです。OpenAI で政府向け販売を統括する Joe Larson 氏は、非機密業務の効率を上げつつ、安全策と人間の判断、そして重大な決定に対する責任の所在は維持すると述べています。

まとめ

米国防総省は GenAI.mil に ChatGPT Mil と Grok for Government を同時に追加し、Gemini と合わせて複数モデルを選べる基盤へ広げました。CUI を IL5 で扱える認定を取り、計画・方針・兵站・事務といった文書中心の業務が対象です。利用者は9カ月で170万人を超え、海軍では移行が義務づけられています。戦闘用途とは切り離したまま、地味な事務作業のほうから生成AIが定着していく流れが見えます。

※サムネイル画像はAI生成のイメージです