Broadcomが600億ドルを超える負債の調達に向けて、貸し手との協議に入っていると報じられました。集めた資金はAnthropicなどが使うAI向けチップの購入に充てられます。条件次第で総額は1,000億ドルに届く可能性があり、AIインフラの資金繰りが自己資金や増資ではなく、負債市場に軸足を移していることを示す案件です。

※1ドル159円換算(2026年8月21日時点)

総額は1,000億ドルに届く可能性

協議されている枠組みは2階建てです。返済順位の低いジュニア・トランシェが約300億ドル(約4兆8,000億円)、担保付きで返済順位の高いシニア・トランシェが約600億〜700億ドル(約9兆5,000億〜11兆1,000億円)とされ、合計すると1,000億ドル(約15兆9,000億円)規模になります。

参加を検討している金融機関として名前が挙がっているのが、BlackstoneとApollo Global Managementです。Broadcomはシニア側の一部について保証を差し入れる想定とされています。

ただし、確定していない部分はまだ多く残ります。ジュニアとシニアの最終的な配分も、Broadcomが保証する金額も、起債の時期も固まっていません。BroadcomとAnthropic、Apollo、Blackstoneのいずれもコメントを出していない段階の話です。

チップを買うのはAnthropicではない

この仕組みで面白いのは、資金の流れとチップの持ち主が分かれている点です。債券を発行するのは、この取引のために作られた特別目的会社(SPV)で、借入は親会社の貸借対照表ではなくSPVの帳簿に載ります。

そして、チップを購入するのは投資家側です。買い取ったハードウェアをAnthropicにリースする形をとるため、Anthropicは巨額の設備投資を自社のバランスシートに抱え込まずに計算資源を確保できます。半導体を「買う」のではなく「借りる」という整理です。

Broadcomがシニア側を保証する意味もここにあります。6月に成立した1件目の取引では、この保証があったおかげでシニア・トランシェが投資適格の格付けを取得し、調達コストが下がったとされています。

20ギガワットという目標に対して、まだ20分の1

Broadcom、Apollo、Blackstoneの3社は6月に「AI XPV」というパートナーシップを組んでいます。その第1号案件が、Broadcomのカスタムチップとネットワーク機器を使ってAnthropicの計算能力を増強するための350億ドル(約5兆6,000億円)の調達でした。

このパートナーシップが掲げているのは、2028年までに主要なAI研究機関向けに20ギガワット超の計算能力を手当てするという目標です。必要な資金は数千億ドル規模と見積もられており、20ギガワットは原子力発電所およそ20基分の出力に相当します。

第1号の350億ドルで賄えるのは1ギガワット分とされています。つまり掲げた目標に対して、まだ20分の1しか進んでいない計算になります。今回の600億ドル超の協議は、その差を埋めにいく2手目という位置づけです。

Broadcomは「Nvidia以外」の受け皿になっている

Broadcomは自社ブランドのGPUを売る会社ではありません。顧客の設計要件に合わせたカスタムシリコンを供給する立場で、AlphabetやMetaのチップを手掛け、AnthropicやOpenAIとも供給契約を結んでいます。技術系企業がNvidiaへの依存度を下げたいときに選ばれるのがこのカスタム路線です。

規模も大きくなっています。同社の最高経営責任者は3月の時点で、来年のAIチップ売上高が1,000億ドル(約15兆9,000億円)を超えるとの見通しを示していました。7月にはSamsungとの間で、2030年までのメモリ・ファウンドリ・先端パッケージングを含む2,000億ドル(約31兆8,000億円)規模の契約を締結しています。Appleとの契約も300億ドル(約4兆8,000億円)を超える規模です。

報道を受けたBroadcomの株価は、時間外取引で一時1.1パーセント上昇しました。年初来では5.2パーセント高の水準です。

負債で建てるAIインフラという流れ

同じ構造の資金調達は、この夏に相次いで表面化しています。NvidiaはBlackRockやGoldman Sachsを含む連合が5,000億ドル(約79兆5,000億円)超をAI基盤の構築に向けて用意していると発表しました。AlphabetとAmazon、Microsoftも、AI関連の設備投資を負債市場で賄う動きに入っています。

制度面も追いついてきました。証券取引委員会(SEC)のスタッフは今月、データセンターの証券化がドッド・フランク法のリスク保有規制の対象外にあたるとの見解を示しています。一方で、AI企業が差し入れる保証は表に出にくい与信でもあり、債券市場ではおよそ700億ドル(約11兆1,000億円)分の「影の与信」として警戒する見方も出ています。Broadcomがシニア・トランシェに付ける保証も、まさにその種類の約束です。

計算資源の確保が、半導体の設計や製造の話から、格付けと担保設計の話へと重心を移しつつあります。誰がチップを持ち、誰が返済リスクを負うのか。AIの競争を左右する要素に、金融の設計図が加わってきました。

まとめ

Broadcomが600億ドル超の負債調達で貸し手と協議に入り、総額は1,000億ドルに達する可能性があると報じられました。約300億ドルのジュニア・トランシェと約600億〜700億ドルのシニア・トランシェで構成され、SPVが発行した債券で投資家がチップを購入し、Anthropicにリースする仕組みです。BroadcomとApollo、Blackstoneが6月に組んだAI XPVは2028年までに20ギガワット超の計算能力を手当てする目標を掲げていますが、進捗はまだ1ギガワット分にとどまります。各社ともコメントを出しておらず、条件も時期も固まっていません。