シンガポール発の通信プラットフォーム企業Circlesが、OpenAI APIを使って構築したAIコンシェルジュの成果を公開しました[1]。カスタマーサポートの65%を人手を介さずに解決し、シンガポールのCircles.Lifeでは1人あたりの平均収入(ARPU)が22%増、解約率は9%減という数字が出ています。携帯電話の契約者が抱える「メニューをたどって、同じ説明を何度も繰り返す」あの体験を、会話1本に置き換えようという試みです。

問い合わせの65%を人手なしで解決する「CareX」

Circlesが提供するAIコンシェルジュの中核にあるのが、CareXと呼ばれる自社開発のマルチエージェント基盤です[1]。顧客の履歴と現在の操作状況を把握する統括役のエージェントが1つあり、その下に請求、契約プラン、ネットワーク管理、アカウント管理といった領域ごとの専門エージェントがぶら下がる構成になっています。

一般的なチャットボットとの違いは、回答を返すところで終わらない点です。たとえば請求に関する問い合わせが来た場合、統括エージェントはアプリ上の操作状況、契約履歴、質問の内容を組み合わせたうえで、適切な専門エージェントに振り分けます。このとき渡されるのは、その用件を処理するのに必要な情報だけです。処理しきれない場合は、それまでの経緯をまとめた状態で人間のオペレーターへ引き継がれます。

数字の伸び方も公表されています。初期の導入事例では、ある通信事業者が最初の1週間で55%の自動解決率に到達しました[1]。現在のCareXは、対応範囲内のやり取りのうち65%を人手なしで完結させています。

問い合わせの3分の2が人を介さずに片付くというのは、コールセンターの人員配置を根本から組み替えられる水準です。もっとも「対応範囲内のワークフロー」という条件付きの数字なので、全問い合わせに対する割合ではない点は読み違えないほうがよいところです。

ARPUを22%押し上げた「Xplore IQ」

もう1つの柱がXplore IQです。こちらは顧客の行動、契約履歴、リアルタイムの利用状況を組み合わせて、次に取るべき行動を割り出す仕組みになっています[1]。海外ローミングのパック提案、プランのアップグレード、そして解約が起きる前の引き止めまでが対象です。

効果の測り方が丁寧なのも、この発表の見どころです。Circlesはシンガポールで、AIによる提案を受け取った顧客と受け取らなかった顧客を比較しました。その結果、提案を受けた側はプランのアップグレードや追加サービスの契約が増え、ARPUが22%上昇しています。同時に、必要なタイミングで届く提案が効いて解約率は9%下がりました[1]。

通信事業者は利用状況、請求、ネットワークの稼働、位置情報といった顧客データを大量に持っています。ただ、そのデータを適切なタイミングの行動に変換するのが難しい、というのがCirclesの見立てです[1]。全員に同じキャンペーンを打つ従来のやり方から、1人ずつに合わせた提案へ切り替えたことが、この差を生んだという整理になります。

開発現場ではCodexが効率を29%改善

Circlesは顧客向けの製品だけでなく、社内の開発にもOpenAIのCodexを使っています[1]。エンジニアリング、情報セキュリティ、インシデント対応の各チームが、設計、コーディング支援、単体テストにCodexを取り入れた結果、開発効率が29%向上したとしています。検証と最終レビューは引き続き人間の専門家が担当する運用です。

個人情報はモデルに渡す前に暗号化する

通信事業者向けにAIを組む以上、扱う情報の性質は重いものになります。Circlesは、顧客情報がモデルに届く前の段階で自動的な制御をかけていると説明しています[1]。具体的には、個人を特定できる情報を検出して暗号化したうえで大規模言語モデル(LLM)に渡す仕組みです。

専門エージェントに与えるアクセス権も限定されています。顧客プロフィール全体を丸ごと参照させるのではなく、その用件を解決するために必要な範囲だけを渡す設計です。加えて、人間への引き継ぎ経路、段階的な展開、レート制限、ロールバックの仕組み、契約上の安全策を組み合わせて運用の制御を保っているとしています。

日本の「povo」もCirclesの基盤で動いている

Circlesは2014年に設立された企業で、通信事業者がデジタルブランドを立ち上げ・運営するためのSaaSプラットフォームを提供しています[1]。自社でもシンガポールでCircles.Lifeという消費者向けの通信事業を運営しており、パートナーは14カ国・6大陸に広がります。公表されている提携先には、KDDI、Etisalat Group(e&)、AT&T、Telkomselといった名前が並びます[2]。

日本の読者にとって身近なのは、そのKDDIとの関係です。KDDIの子会社であるKDDI Digital Lifeは、Circlesのクラウドプラットフォーム「Circles-X」を採用し、基本料0円から使える料金体系のpovoブランドを運営してきました[3]。顧客管理や料金計算を担うBSS、ネットワーク運用を担うOSSといった従来は別々に構築されていた機能を1つのクラウド基盤にまとめ、データを1カ所に集約できる点が評価されたとされています。

今回のAIコンシェルジュは、その基盤の上に載る新しい層です。povoが直接この機能を採用するという発表は出ていませんが、同じ会社のプラットフォームが日本市場でも稼働している以上、遠い国の話とも言い切れません。

次は音声、目標は95%

Circlesは今後、CareXの動作状況を可視化する仕組みを強化し、リアルタイムの音声サポートへ広げる計画です[1]。テキストと音声を合わせたワークフロー全体で、95%の自動解決率を目標に据えています。困ったときにまず電話をかける利用者は今も多く、その入口を自動化できるかどうかが次の焦点になります。

なお、このAIコンシェルジュ自体は2026年4月30日にCirclesとOpenAIが共同で発表したもので、両社は複数年にわたる協業として位置づけています[2]。今回OpenAIが公開したのは、その後の運用で出てきた実測値をまとめた内容という位置づけです。

まとめ

CirclesはOpenAI APIを土台にAIコンシェルジュを構築し、カスタマーサポートの65%を人手なしで解決するCareXと、ARPUを22%押し上げたXplore IQという2つの成果を公開しました。個人情報はモデルに渡す前に暗号化し、専門エージェントには必要な範囲だけを渡す設計です。同社のプラットフォームは日本のpovoでも使われており、次の焦点はリアルタイム音声への対応と95%という自動解決率の目標になります。

出典:https://openai.com/index/circles

出典:https://circles.co/in-the-loop/ai-native-telco-stack-carex-xplore-iq-openai-partnership

出典:https://businessnetwork.jp/article/9148/