NVIDIAは、台北で開催中の「NVIDIA GTC Taipei at COMPUTEX」で、個人向けAIエージェントの実行に特化した新しいWindows PC「NVIDIA RTX Spark」を発表しました[1]。1ペタフロップスのAI演算性能と128GBのユニファイドメモリ(CPUとGPUで共有する大容量メモリ)を備え、クラウドに送らず手元の端末でエージェントを動かせる点が特徴です[1]。あわせてNVIDIAは、RTXとDGXの広い製品群でローカル動作のエージェントを強化する一連のアップデートも明らかにしました[1]。
個人向けエージェントに照準を合わせた新型PC
NVIDIAによると、GitHub上ではOpenClawやHermesといったオープンソースの個人向けエージェントが急速に広まっています[1]。これらのエージェントは利用者の好みや作業手順に合わせて動き、アプリを操作したり、コンテンツを生成したり、繰り返し作業を自動化したりと、複数の手順にまたがるタスクを端末上だけで処理できるとされています[1]。
こうした用途に向けて投入されるのがRTX Sparkです。1ペタフロップスのAI演算性能と128GBのユニファイドメモリにより、端末側で動くエージェントの計算需要に応えられるとし、NVIDIAは「道具からチームメイトへ」と位置づけています[1]。AI処理・制作・ゲームを想定し、終日駆動するスリムなWindowsノートと、省電力のデスクトップPCの双方で展開されます[1]。
専門家向けには「NVIDIA DGX Station for Windows」も用意されます。データセンター級のGPUとCPUを推論(学習済みのAIが実際に答えを導く処理)に充て、管理性やセキュリティ、互換性のためにWindowsを搭載したデスクサイドのAIスーパーコンピューターという位置づけです[1]。
ローカルでエージェントを安全に動かす仕組み
エージェントが広く普及しなかった背景には、ふだん使うPC上で安全かつプライバシーを保ったまま動かしにくい、という事情がありました[1]。NVIDIAはMicrosoftと協力し、この課題に対応する堅牢で安全なWindows基盤を提供します[1]。土台となるのは、Microsoftが新たに用意したエージェント向けのセキュリティ基盤(プリミティブ)と、「NVIDIA OpenShell」と呼ぶ実行環境(ランタイム)です[1]。
このWindows向けの新しい仕組みは、本人確認、隔離、ポリシー管理、端末から端末までのセキュリティ機能を提供します[1]。OpenShellはさらに、エージェントに何を許可し何を禁じるかを利用者が定義でき、プライバシー方針に応じて処理をローカルのモデルへ振り分け、クラウドのモデルに送る問い合わせから個人情報を伏せる機能を備えるとしています[1]。
この安全層はHermes AgentやOpenClawといった主要なエージェント開発元に採用され、それぞれの新しいWindowsアプリに組み込まれます[1]。これらのアプリを使うと、端末上のエージェントがWindowsアプリ内の作業を実行したり、複数アプリにまたがる作業を組み立てたり、画像や動画を生成したり、プラグインやアプリのコードを書いたり、手元のファイルを意味で検索したりできるようになるとされています[1]。
推論性能の底上げとマルチGPU対応、Linux環境の整備
NVIDIAは、ローカルで動くオープンモデルの基盤強化も進めています[1]。推論エンジンの「llama.cpp」コミュニティと協力し、複数トークンを先読みする投機的デコードの一種「マルチトークン予測(MTP)」などを導入しました[1]。これにより、Qwen 3.6および3.5の27Bモデルで2倍、35Bモデルで1.6倍の性能向上が得られ、「LM Studio」やllama.cppのWeb UIから利用できるとしています[1]。複数GPUを使う環境では、llama.cppがテンソル並列に対応してメモリは最大2倍・演算は最大1.8倍となり、画像生成ツール「ComfyUI」も新方式で最大2倍に高速化されます[1]。
エージェントの操作能力も拡張されます。H Companyの「コンピューター操作」用ツールは、画面を見てマウスとキーボードを操る形で、APIを持たないアプリでもエージェントがPCを操作できるようにするもので、RTXとDGXのPCに対応予定です[1]。NVIDIAは同社のモデルを量子化して処理を軽くし、GPU上で2倍の高速化とメモリ消費35%削減を実現したとしています[1]。
開発者向けには、Linux環境を必要とする人に向けて「NVIDIA DGX Spark」を最も有力な選択肢と位置づけます[1]。エージェントを安全に展開するツール「NemoClaw」が、LinuxとWSL(Windows上のLinux実行環境)で動くすべてのRTX・DGX PCに提供され、自動的なサンドボックス化(隔離実行)やHermes Agent対応が加わりました[1]。推論基盤「vLLM」向けには、Qwen 3.6の35Bモデル用に最適化したデータ形式を用意し、DGX Sparkで従来比2.6倍の性能を示したとしています[1]。
クリエイティブ系アプリも RTX Spark 向けに刷新
制作ソフトの対応も同時に進みます。AdobeはPhotoshopとPremiereをRTX Spark向けに作り直し、生成AI機能「ジェネレーティブ塗りつぶし」や「生成拡張」を含む処理で、編集や色補正などを最大2倍に高速化するとしています[1]。Premiereはユニファイドメモリやソフトウェア基盤「TensorRT」を活用する新しい映像パイプラインを採用し、「Substance 3D Painter」「Stager」もRTX Spark上でネイティブ動作します[1]。
配信向けの「NVIDIA Broadcast 2.2」は、マイクの音質を高める「Studio Voice」を正式版に格上げし、GeForce RTX 3060以上で動作するようになりました[1]。3D制作ソフト「Blender」のレンダリング機能「Cycles」では、ノイズ除去にNVIDIAの「DLSS 4.5」が組み込まれ、今秋のBlender 5.3でRTX Sparkと同時に提供されます[1]。さらに、AIが生成しがちな毎秒15〜20コマの映像をなめらかにする「RTX Video Frame Generation」も新たに加わります[1]。ASUSのProArtノートには、画像生成モデル「FLUX.2 Klein 4B」が標準搭載され、最大2.5倍の高速化が図られています[1]。これらの多くは、今秋のRTX Spark投入に合わせて順次提供される予定です[1]。
まとめ
今回の発表は、クラウド任せだったAIエージェントを、安全性とプライバシーを保ちながら手元のPCで動かす方向へ踏み出すものです。RTX Sparkという専用機の投入に加え、セキュリティ基盤、推論の高速化、制作ソフトの最適化までを一体で示した点が特徴と言えます。多くの機能は今秋に出そろう見込みで、ローカルAIがどこまで日常の道具になじむかが次の注目点になりそうです。
出典:https://blogs.nvidia.com/blog/rtx-ai-garage-computex-spark-local-agents/
