SK hynixがSandiskと共同で、次世代ストレージ技術High Bandwidth Flash(HBF)の初となる標準仕様を公開しました。積層したNANDフラッシュをAIアクセラレーターのすぐ隣に置き、HBM並みの転送速度と桁違いの容量を両立させようという構想です。仕様は最大512GBの容量と最大約3TB/sの帯域を定義し、業界標準のOpen Compute Project(OCP)を通じて誰でも参照できる形で出されました。

HBMとSSDの間に、もう1階層を差し込む

現在のAIサーバーでは、GPUのすぐ横にHBM(広帯域メモリ)を積み、その外側にSSDを置く構成が一般的です。HBMは速い代わりに容量が限られ、SSDは容量が取れる代わりに遅いという、性格の異なる2つの層しかありません。

推論の規模が大きくなるほど、この隙間が効いてきます。モデルの重みや文脈データがHBMに載りきらず、かといってSSDまで取りに行くと待たされる。HBFはちょうどこの中間に置く階層として設計されています。NANDを縦に積むことで容量を確保しつつ、接続の帯域はHBMに近い水準を狙う、という位置づけです。

注意しておきたいのは、SK hynixとSandiskがHBFをHBMの置き換えとして提案しているわけではない点です。仕様は両者が同じシステム内で共存することを前提にしており、低遅延が要る処理はHBMが担い、重みなど大量に抱えておきたいデータをHBFが受け持つ、という役割分担が想定されています。

容量は最大512GB、帯域は3段階

公開された仕様では、NANDダイを8段または16段積む2種類の構成が定義され、容量は最大512GBまでをカバーします。帯域はGrade1からGrade3までの3段階に分けられ、およそ0.4TB/sから3.0TB/sまで段階的に選べる形になっています。

用途に応じて段階を選べる作りになっているのは、HBFが単一の製品ではなく、幅広いアクセラレーターに載ることを見込んでいるためです。仕様には容量と帯域だけでなく、接続インターフェースと電気的特性、ダイ積層プロセスの信頼性とパッケージングの指針、ソフトウェア側の入出力の扱いまでが書き込まれています。実装に必要な材料をひととおり揃えた、という内容です。

Sandiskはこれまでに、16段積みで512GBを実現しつつ、パッケージのサイズはHBMと同程度に収まるという見通しを示してきました。同等のコストでHBMの8倍から16倍の容量を狙えるという主張もしており、Llama 3.1 405Bを使った同社のシミュレーションでは、HBMを無制限に積んだ構成との性能差が2.2パーセント以内に収まったとしています。あくまで自社の試算ではありますが、狙っている水準は読み取れます。

接続はUCIe、GPUにもCPUにも

今回の仕様で目を引くのが、プロセッサとの接続にUCIe(Universal Chiplet Interconnect Express)を採用した点です。UCIeは、種類の異なる半導体チップレットを高速につなぐために策定された業界標準のインターフェース仕様で、特定メーカーの独自規格ではありません。

ここを標準に寄せたことで、HBFはGPUに限らずCPUなど別種のプロセッサにも組み合わせやすくなります。仕様がOCP経由で公開されたことと合わせて、囲い込みではなく業界全体の共通基盤として広げたい、という意図がはっきり出ています。

半年で仕様化、GoogleとTenstorrentも参加

SK hynixとSandiskが標準化で手を組んだのは2025年8月で、コンソーシアムの立ち上げが2026年2月。そこから約6カ月で最初の仕様まで到達した計算になります。半導体の規格としてはかなり速い部類です。

コンソーシアムにはその後GoogleとTenstorrentが加わっています。メモリベンダーだけでなく、実際にAIアクセラレーターを設計して回す側が入っている点は、仕様の実効性を測るうえで見ておきたいところです。使う側の要件が早い段階で反映されるほど、絵に描いた餅になりにくくなります。

製品化の時期については、Sandiskがこれまでに最初のサンプル出荷を2026年後半、HBFを使ったAI推論向けデバイスのサンプルを2027年初頭と示していました。今回の発表ではスケジュールの更新までは触れられていません。まずは商用品より先に共通のインターフェースを揃え、開発者が同じ前提で設計に入れる状態を作った、という段階です。

FMS 2026では375層NANDも初公開

今回の発表は、カリフォルニア州サンタクララで8月4日から6日まで開催されるFMS(Future of Memory and Storage)2026の開幕に合わせたものです。初日にはSK hynixのKim Chun-sung氏とKang Uk-song氏が、複数種類のメモリを1つの体系としてつなぐTiered Memoryをテーマに基調講演を行います。6日にはSandiskとGoogle DeepMindの担当者を交えたパネル討論も予定されています。

展示ブースでは、開発中の第10世代となる375層4D NANDのウェハーと製品が初めて公開されます。SK hynixによれば、前世代比で電力あたりの性能が2.5倍に向上しており、これを使った高性能・大容量のeSSDを2027年前半に量産へ移す計画です。HBFという新しい階層の話と、その土台になるNAND本体の世代交代が同じ場で示された形になります。

まとめ

SK hynixとSandiskが公開したHBFの初期仕様は、最大512GBの容量と最大約3.0TB/sの帯域、そしてUCIeによるプロセッサ接続を定義しています。HBMを置き換えるのではなく、HBMとSSDの間に新しい層を足して推論時の容量不足をほぐすという設計思想です。コンソーシアムにはGoogleとTenstorrentが加わり、仕様はOCPを通じて開かれた形で公開されました。実際の製品が出てくるのはこれからですが、AI向けメモリの構成が2層から3層へ動き始めた区切りとして押さえておきたい発表です。

https://news.skhynix.com/en/hbf-at-fms-2026/