Qualcommは、ARやMR(現実に映像を重ねる複合現実)向けの新しいプロセッサ「Snapdragon Reality Elite」を発表しました。拡張現実の見本市Augmented World Expo(AWE)の基調講演で公開されたもので、次世代のARグラスやヘッドセットをより小さく、より省電力に仕上げるための土台となるチップです。片眼あたり最大4.4Kの表示や端末内で完結するAI処理を前面に出し、あわせてメガネ型端末を手早く作るための新プラットフォーム「START」も披露しました。
映像とAIを底上げする最上位チップ
Snapdragon Reality Eliteは、Qualcommが用意するXR(VR・AR・MRを包括する総称)向けチップの最上位に位置づけられます。表示性能は片眼あたり最大4.4K解像度・90fpsに対応し、従来の上位チップ「XR2+ Gen 2」からきめ細かさと低遅延の両面で底上げされました。
性能面の伸びも大きく、QualcommはXR2+ Gen 2との比較でGPU性能が最大60パーセント、CPU性能が最大30パーセント、AI処理を担うNPU(ニューラル演算ユニット)が最大160パーセント向上したと説明しています。それでいて消費電力は抑えられており、バッテリー駆動時間は最大20パーセント延び、動作温度は最大12度低くなるとしています。性能を引き上げながら発熱と電力を抑えることで、装着し続けても負担の少ない小型の端末を作りやすくする狙いです。
XR2+ Gen 2は、SAMSUNGが1,800ドル(約29万円)で展開するヘッドセット「Galaxy XR」などに使われてきました。Snapdragon Reality Eliteは、その後継として一段上の処理性能を求める端末に向けた選択肢になります。
※1ドル=161円換算(2026年6月22日時点)
端末の中だけで動く生成AI
今回のチップで特に強調されているのが、オンデバイスAI(クラウドに頼らず端末内で完結して動くAI)です。NPUは48 TOPS(1秒あたり48兆回の演算)に達し、大規模言語モデルや画像を扱う大規模ビジョンモデルをグラスやヘッドセット上で直接動かせるとされています。
これにより、本人そっくりの写実的なアバターをその場で生成したり、状況を判断して作業を手伝うエージェント機能を端末側で走らせたりといった使い方が見込めます。さらに、コンピュータービジョン(映像から物体や状況を読み取る技術)の処理を専用に受け持つ「EVA」と呼ぶブロックを備え、手や頭の動きの追跡、そして現実の景色に映像をなじませる光学シースルー(レンズ越しに外界をそのまま見る方式)の精度も高められています。
単体型からパック接続型まで対応
Snapdragon Reality Eliteは、本体だけで動く単体型のヘッドセットと、別売りの小型計算機(コンピュートパック)とケーブルでつなぐ接続型の双方に対応します。最初の搭載機として発表されたのは、Xrealのグラス「Aura」です。AuraはGoogleのAndroid XR(メガネやヘッドセット向けの基盤ソフト)を採用する接続型の端末で、AWEの会場で正式に披露されました。
メガネ型端末を手早く作る「START」
Qualcommは新チップとは別に、スマートグラスを手早く製品化するためのプラットフォーム「START(Scalable Turnkey AI Ready Toolkit)」も発表しました。これは、AI機能付きのウェアラブルを作りたい企業向けに用意された既製の開発キットです。
STARTには、QualcommのチップAR1+を載せた専用モジュールに加え、iOSとAndroid向けのコンパニオンアプリを含むソフトウェアがひとまとめになっています。音声だけのフレームから、レンズ内に情報を映し出す表示付きのものまで対応し、企業は用意された設計をそのまま使うか、自社向けに手を加えて使えます。最初の協業相手はイギリスのアイウェア企業Inspecsで、同社はO'NeillやBarbour、Superdryといったブランドのメガネを手がけています。既存のメガネにAI機能を後付けしていく入り口になりそうです。
まとめ
Snapdragon Reality Eliteは、片眼4.4K・90fpsの表示と、48 TOPSのNPUによる端末内での生成AIを売りにしたQualcomm最上位のXRチップです。前世代比でGPUが最大60パーセント、NPUが最大160パーセント伸びる一方、バッテリー駆動は最大20パーセント延び発熱も抑えられ、小型で実用的なARグラスを後押しします。初の搭載機はXrealのAuraで、あわせて発表された開発キット「START」とともに、AIメガネの裾野を広げる動きとして注目されます。
