NVIDIAが、AIグラフィックス技術「DLSS」の新世代となる「DLSS 5」の提供を、米国太平洋時間9月3日21時(日本時間9月4日13時)に始めます。第1弾の対応タイトルはVisual Conceptsが開発し2Kが販売するバスケットボールゲーム「NBA 2K27」で、GeForce RTX 50シリーズのデスクトップGPUとノートPC向けGPUの全機種、およびクラウドゲーミングのGeForce NOWで利用できます。これまでのDLSSが「フレームレートを上げる技術」だったのに対し、DLSS 5は「画の質感そのものをAIで底上げする技術」へと役割を広げた点が最大の変化です。
解像度でもフレーム数でもなく「光と素材」を生成する
DLSS 5の中核は、NVIDIAが「3D-Guided Neural Rendering(3D誘導型ニューラルレンダリング)」と呼ぶ仕組みです。2018年に登場したDLSSは、低解像度の映像から高解像度の画を推定するSuper Resolutionに始まり、その後にFrame Generation、Multi Frame Generation、Ray Reconstructionと機能を増やしてきました。NVIDIAによると、現行のDLSS 4.5では画面上の24ピクセルのうち23ピクセルをAIが描いている計算になるそうです。
ただ、これらはいずれも「ゲームエンジンが計算した情報を再構成する」技術でした。DLSS 5はそこから一歩踏み込み、リアルタイム描画の制約のために開発者が削らざるを得なかった照明や素材の細部を、AIが生成して補います。具体的には、皮膚の内部で光が散乱するサブサーフェススキャタリング、髪や葉を透過する光、物体同士が接する部分の深い影といった要素です。映画のVFXでは1フレームに何時間もかけられる一方、ゲームは毎秒60フレーム以上を出す必要があるため、髪の毛1本1本や多層構造の肌は簡略化されてきました。その差を埋めるのがDLSS 5の狙いです。
生成AIの「ばらつき」をどう抑えたか
画像生成AIをそのままゲームに持ち込めない理由は、出力が確率的だからです。同じ指示を10回与えれば10通りの結果が返ってきます。静止画の制作なら好きな1枚を選べばよいですが、ゲームではキャラクターの顔が1ミリ秒ごとに変わるわけにはいきません。
そこでDLSS 5は、テキストの指示ではなく、ゲームエンジンが描画したフレームそのものを土台にします。アーティストが作ったジオメトリやテクスチャ、ライティングのバッファをそのまま入力とし、色情報とモーションベクトルを受け取ってグラフィックスパイプラインの最終段として動作します。NVIDIAが挙げる設計上のポイントは3つあります。
1つ目は決定論的な動作です。同じ入力フレームに対しては常に同じ出力を返すように設計され、色、アルベド、法線といったエンジン由来のデータを認識して、物体・素材・光源の関係を把握します。2つ目は時間方向の安定性で、動画生成モデルのように複数フレームをまとめて処理するのではなく、1フレーム入力・1フレーム出力を厳密に守ります。エンジンから直接受け取るモーションベクトルを使うことで、プレイヤーが動いてもちらつきや揺らぎが出ないようにしています。3つ目は速度で、リアルタイムの3D描画パイプライン専用に設計した小型のAIモデルが、RTX 50シリーズのTensorコア上で動き、1枚のGPUだけで最大4K解像度に対応します。
開発者側には細かな「演出の手綱」
見た目をどこまでリアルにするかは創作上の判断です。そのためDLSS 5は、開発者向けにかなり細かい制御手段を用意しています。SDKには重みの異なる複数のモデルが含まれ、屋外の植生が多い場面と屋内のドラマチックな場面で別のモデルを使い分けたり、ゲームプレイとカットシーンで切り替えたりできます。
さらに「Structure Intensity」でアンビエントオクルージョンや反射、サブサーフェススキャタリングといった高周波の細部を、「Tone Intensity」で全体の明るさや色の応答といった低周波の要素を調整できます。Tone Intensityをゼロにすれば、描画されたフレームの色をそのまま維持することも可能です。加えて、場面内の物体を自動認識するセマンティックマスクにより、背景の質感だけを強めてキャラクターの顔には手を入れない、といった使い分けもできます。エンジン側のマスクを使えば、ガラス製品や水滴、葉といった特定の小物だけにニューラルライティングの調整を加えることもできます。
NVIDIAは、出力の質は入力の質に比例するとも説明しています。ラスタライズ描画でも効果はあるものの、レイトレーシングやパストレーシングで計算した豊かな光の情報を与えるほど、結果はより正確になるとのことです。開発者側の組み込みは、DLSS全体で使われているStreamlineフレームワーク、またはUnreal Engine 5向けプラグインで行えます。DLSS 5は独立した任意機能なので、Super ResolutionやMulti Frame Generationと併用するかどうかはスタジオが選べます。プレイヤーにとっては、単なるオン・オフの切り替えです。
NBA 2K27での効果とフレームレート
第1弾のNBA 2K27では、選手の耳を透ける光、肌の自然な明るさ、髪に当たる光の表現が強化されます。実在の選手から3Dスキャンした顔の形状は変えずに、質感だけを引き上げるという使い方です。Visual ConceptsのシニアプロデューサーであるPeter Kavic氏は、全体のトーンをアートディレクションに合わせつつ、ピクセル単位のマスクでキャラクターの細部を調整できる自由度を評価しています。
性能面では、4K解像度、Ultraプリセット、レイトレーシング有効の条件で、DLSSの全機能を組み合わせたGeForce RTX 5090が最大370fpsを記録したとしています。2560x1440では、RTX 5090で最大590fps、RTX 5080で410fps、RTX 5070 Tiで350fps、RTX 5070で260fpsです。1920x1080であれば、RTX 50シリーズのほぼ全機種でレイトレーシングとUltraプリセットを維持したままDLSS 5を使えるとのことです。なお、これらはNVIDIAが自社で測定した数値で、対象は今回の1タイトルのみです。
利用手順は次のとおりです。9月3日21時(太平洋時間)に配信される新しいGeForce Game Ready DriverをNVIDIAのウェブサイトかNVIDIAアプリから導入し、ゲーム内の「Video Settings」で「DLSS Neural Rendering」をオンにします。Super ResolutionやFrame Generation、NVIDIA Reflexなどは好みに合わせて設定でき、プレイ中やリプレイ中はキーボードのF9キーでオン・オフを切り替えられます。GeForce NOWでは、NVIDIAが運用するRTX 5080搭載サーバーから配信を受けるUltimate会員が対象です。
半年で5倍、秋にはさらに高速化
DLSS 5は2026年3月に初めて公開された技術で、当時のデモはGeForce RTX 5090を2枚使って動いていました。それが半年で1枚のカードで動くまでになり、NVIDIAはこの間に5倍の性能向上を達成したと述べています。パイプラインの最適化とモデルの改良を組み合わせた結果で、画質も同時に向上しているそうです。NVIDIAは秋にモデルの更新を予定しており、性能はさらに伸びる見込みとしています。対応タイトルも今後数週間から数か月のうちに増える予定ですが、現時点で具体的なタイトル名は明かされていません。
一方で、この技術には発表当初から賛否があります。AIが「本来こう見えるはずだ」と推定して光や質感を描き足すという仕組みそのものに対し、アーティストの意図した画作りが変わってしまうのではないかという懸念が一部のユーザーから出ており、処理負荷が重いことや、対応がRTX 50シリーズに限られる点も議論の対象になっています。NVIDIA側は、フレームの構造と形状はエンジンの描画結果が決め、変えてよい範囲はアーティストが指定する、という設計でこの懸念に応える構えです。
まとめ
DLSS 5は、AIの役割を「速くする」から「本物らしくする」へ広げるNVIDIAの新技術で、日本時間9月4日13時からNBA 2K27で使えるようになります。対応はRTX 50シリーズ全機種とGeForce NOW Ultimateで、新ドライバの導入とゲーム内設定のオンだけで有効になります。3月の公開から半年で必要なGPUが2枚から1枚に減った速さを見ると、対応タイトルの広がりと秋のモデル更新が次の注目点になりそうです。
