AI開発のAnthropicが、英国のAIインフラ企業Nscaleから計算能力を借り上げる大型契約をまとめたと報じられました。金額は6年間でおよそ450億ドル(約7兆1,000億円)、借りるのは米ウェストバージニア州で建設中のデータセンターの460メガワット分です。稼働は2027年末の見込みで、動くのはNVIDIAの次世代GPU「Vera Rubin」になります。
※1ドル159円換算
契約の単位が「台数」から「メガワット」へ
今回の契約で目を引くのは、借りる対象がサーバーの台数ではなく電力量で示されている点です。460メガワットは、米国の一般家庭でおよそ34万5,000世帯が同時に消費する規模にあたります。AI向けの計算基盤では、GPUを何枚買えるかよりも先に、それを冷やして動かし続ける電力を確保できるかどうかが上限になります。だからこそ、契約書に並ぶ数字がワットになるわけです。
6年で450億ドルという総額を単純に割ると、年あたりおよそ75億ドル(約1兆1,900億円)。1社のモデル開発企業が、1つの拠点に対して毎年これだけの賃料を払い続ける計算になります。搭載されるVera RubinはNVIDIAが次世代の主力と位置づけるアーキテクチャで、2027年末という稼働時期は、その量産が本格化する時期と重なります。
Microsoftが抜けた枠に、Anthropicが入った
舞台となるのは、Nscaleがウェストバージニア州に構える「Monarch」と名付けられた大規模拠点です。敷地は2,250エーカー、日本の感覚に直すとおよそ9.1平方キロメートルで、理論上は8ギガワットを超える計算設備を収容できるとされています。今回Anthropicが押さえた460メガワットは、その全体像から見ればまだ一部にすぎません。
この土地には前段があります。2026年3月、Nscaleは同じMonarchで1.35ギガワット分の計算能力を供給する意向表明書をMicrosoftと交わしていました。ところが報道によると、Microsoftは夏のあいだにこの話から手を引き、空いた枠へAnthropicが入る形になったとされています。データセンターの用地と電力枠が、事業者間で玉突きのように移っていく状況が透けて見えます。
電源の手当ても独特です。Nscaleは重機大手Caterpillarと組み、G3500シリーズの天然ガス発電機を敷地内に並べることで、2028年前半までに2ギガワットの自家発電を立ち上げる計画を掲げています。系統からの受電を待つのではなく、発電所ごと自前で建てるという発想です。拠点全体と発電設備を含めた開発費は総額でおよそ710億ドル(約11兆3,000億円)、うち470億ドル(約7兆5,000億円)が半導体の調達分と見積もられています。
「避けられない負荷」からの1年
Anthropic側の事情もはっきりしています。同社は今年、Claudeの需要が伸びた結果として自社インフラに避けられない負荷がかかり、混雑する時間帯に信頼性と応答性能が落ちたことを認めていました。以後の動きは、その反省をなぞるように計算資源の確保へ振り切っています。AMD、SpaceX、Google、Broadcomといった相手と立て続けに大型の提携を結んでおり、今回のNscaleはその延長線上に位置します。
背景にあるのが上場準備です。同社は6月にSECへ目論見書を非公開で提出済みで、投資家との初期的な面談も始まっています。9,650億ドル(約153兆円)とされる評価額を説明するうえで、どれだけの計算力を何年先まで押さえてあるかは、モデルの性能と並ぶ説明材料になります。長期契約は財務的には重い固定費ですが、供給が逼迫している局面では、確保できていること自体が競争力として語られます。
一方で、これらの契約は稼働前の前払い的な性格を持ちます。460メガワットが実際に電気を食い始めるのは2027年末以降で、それまでにモデルの効率が大きく改善したり、需要の伸びが想定を下回ったりすれば、押さえた枠が重荷に変わる可能性も残ります。
まとめ
Anthropicが6年450億ドルでNscaleの計算能力を借り、ウェストバージニア州のMonarch拠点で460メガワット分、NVIDIA Vera Rubinを2027年末から使う見込みです。Microsoftが手を引いた枠を引き継いだ形で、拠点は自前の天然ガス発電まで抱えます。上場を控えたAnthropicにとって、確保済みの電力量そのものが投資家向けの説明材料になっています。
