AI開発企業のAnthropic(米)が、AI開発の工程そのものをAIに任せる流れが加速しているとする論考を公開しました。同社のシンクタンク部門であるThe Anthropic Instituteがまとめたもので、公開ベンチマークと社外未公開の社内データの両面から、AIがAI自身の開発を速めている実態を示しています。最終的にAIが自らの後継を設計・開発する「再帰的自己改善(recursive self-improvement)」に向けた現在地と、その含意を論じる内容です[1]。
「AIがAIを作る」までの5段階
Anthropicは、自社の開発スタイルの変化を5つの段階で整理しています。2021〜2023年は、技術者がノートパソコンでコードや文書を書く、一般的なIT企業と変わらない働き方でした。2023〜2025年はチャットボットを補助に使い、短いコードを生成して貼り付ける段階に進みます。2025〜2026年にはエージェントが自分でコードを書き換えられるようになり、現在はコードの実行や、ほかのエージェントへの作業委任までこなすとしています。
その先に同社が見据えるのが、エージェントがモデルの構築や学習まで担い、ClaudeがClaude自身を継続的に改良する「ループが閉じる」段階です。同社はその段階にはまだ到達しておらず、再帰的自己改善が避けられないわけでもないとしつつ、多くの組織の備えよりも早く訪れる可能性があると指摘しています。
外部ベンチマークが示す加速
論考によると、モデルが改善する速度そのものが上がっているといいます。AIが自力で安定してこなせる作業の長さは、かつておよそ7か月で倍増していたものが、近年は約4か月で倍増するペースに変わったとしています[1][2]。2024年3月のClaude Opus 3は人間で約4分の作業をこなせた一方、1年後のClaude Sonnet 3.7は約1時間半、さらに1年後のClaude Opus 4.6は12時間規模の作業をこなせるようになったとされます。この傾向が続けば、熟練者が数日かける作業が今年中に、数週間かかる作業が2027年に射程へ入ると見込んでいます。
ソフトウェア開発の標準的なテストであるSWE-benchは、実在のコードベースとバグ報告を渡して修正させるものですが、スコアは数年で1桁台からほぼ満点(飽和)まで到達したとしています。研究の再現能力を測るCORE-benchでも、2024年に約20パーセントだった成功率が、15か月後にはほぼ満点に達したとのことです。
社内データに見るClaudeの貢献
Anthropicは社内の実データも公開しました。2026年5月時点で、本番コードに統合されたコードの8割超をClaudeが記述しているといいます。Claude Codeが2025年2月に登場する前は数パーセント台でした。技術者1人あたりが1日に統合するコード行数は2021〜2024年はほぼ横ばいでしたが、Claudeがコードを実行できるようになった2025年に増加へ転じ、より長時間の自律作業が可能になった2026年に伸びが急になったとしています。2026年第2四半期には、技術者1人あたりの行数が2024年の8倍に達したとのことです。ただし同社は、行数は量を測る指標で質は測れないため、生産性の向上を過大評価しがちだと注意を促しています[1]。
質の面でも改善が進んでいるとします。仕様が曖昧な難題でもClaudeが軌道修正を要する割合は1年にわたり下がり続け、最も自由度の高い課題での成功率は2026年5月に76パーセント(半年で50ポイント上昇)に達したとのことです。コードの読みやすさはなお人間に劣る場面が残るものの、2025年後半は人間より劣っていた品質が現在はほぼ同等で、1年以内には上回ると見込むとしています。Anthropicは現在、コードの統合前に自動のClaudeレビュアーが点検する体制を採っており、過去の本番障害の原因となったバグのおよそ3分の1を事前に検出できたはずだと振り返っています。
研究の自動化とリスク、そして「減速の選択肢」
研究面でも進展がみられるといいます。学習用コードを、正しさを保ったまま高速化させる定例テストでは、2025年5月のClaude Opus 4が平均で約3倍の高速化だったのに対し、2026年4月のClaude Mythos Previewは約52倍を達成したとのことです(熟練研究者なら4〜8時間で約4倍が目安)。2026年4月には、弱いモデルが強いモデルを監督できるかという未解決の問題を、エージェント群が端から端まで解く実証も公開しました。エージェントは延べ800時間、約1万8,000ドル(約288万円)※1ドル160円換算の計算資源で目標の97パーセントを回復した一方、人間2人は1週間で約23パーセントにとどまったとしています。ただし結果は本番規模のモデルには素直に転移せず、問題設定と採点基準は人間が用意した点が留保事項として挙げられています[1]。
一方で同社は、どの問題に取り組むかを選ぶ「研究の目利き」は、当面は人間が比較優位を持つ領域だとしています。そのうえで今後の展開として、トレンドが頭打ちになるが現在の能力が社会へ広く普及するケース、人間が方向付けを担いつつ開発の自動化で効率が複利的に高まるケース、AIが完全な再帰的自己改善に至り自ら後継を作り始めるケースという3つのシナリオを提示し、最も可能性が高いのは2つ目だとしています。さらに同社は、技術の発展を実効的に遅らせる「選択肢」を世界が持つことは望ましいとしつつ、それには複数国の主要な研究機関が同じ条件で停止し、互いに検証できる枠組みが要ると論じ、今後数か月で政策担当者やほかのAI企業を交えた議論の場を設ける考えを示しました。
まとめ
今回の論考は、AI開発の主導権が人間からAIへ段階的に移りつつある現状を、社内外のデータで裏づけようとする内容です。コード記述の8割超をClaudeが担い、研究の実験も人間を大きく上回る速度でこなす一方、何に取り組むかを選ぶ判断は当面人間が担うとされます。Anthropicは再帰的自己改善がもたらす恩恵とリスクの双方を見据え、検証可能な国際協調や一時停止の選択肢づくりの必要性を訴えています。AIがAI自身を作る未来が現実味を帯びるなかで、その進み方をどう監督するかという問いが、改めて投げかけられています。
出典:https://www.anthropic.com/institute/recursive-self-improvement
