Sakana AIは8月24日、防衛省と「総合分析業務に必要なAI機能の調査・実証」に関する契約を締結したと発表しました。契約を結んだのは7月29日で、対象は同省の情報機関である情報本部が担う総合分析業務です。情報の収集・分析・管理という3つの観点からAIエージェント技術を適用し、分析官の判断を支える機能を実証します。3月に公表された指揮統制システムの案件に続く、防衛分野での取り組みになります。

契約は7月29日、公表は8月24日

今回の契約は、政府が防衛力強化の柱として位置付けている「情報力」の分野に、最先端のAIを持ち込む取り組みです。Sakana AIは契約名を「総合分析業務に必要なAI機能の調査・実証」としており、名称のとおり本格導入そのものではなく、まず使えるかどうかを見極める段階にあたります。

契約金額や実証の期間は公表されていません。防衛省側の発注部署や、成果をどの範囲まで公開するのかについても、現時点で具体的な説明はありません。国の情報機関が扱う業務が対象である以上、詳細が伏せられるのはある程度想定される範囲です。

対象は情報本部が担う「総合分析業務」

情報本部は、防衛省の中で情報の収集と分析を専門に担う組織です。今回の実証はその中でも、複数の情報源から得た材料を突き合わせて全体像を組み立てる総合分析業務に照準を合わせています。

Sakana AIは背景として、安全保障環境が複雑になるなかで、適時適切な情報の収集・分析・管理が政策や運用の意思決定者にとって欠かせない能力になっていると説明しています。そのうえで、情報量そのものが膨らみ、分析対象も増え続けているため、AIによるスピード・精度・効率の底上げが急務だとしています。

分析官が読むべき材料が増え続ける一方で、人員をそれに比例して増やすことはできません。人手で回している工程のどこをAIに任せられるのかを見極めるのが、この実証の実質的な狙いだと言えます。

収集・分析・管理の3つの観点で検証する

実証は、日々のインテリジェンス業務で課題になっている3点に沿って進められます。情報収集の効率化、分析能力の向上、そして体系的な情報管理です。この3つを支えるのが、Sakana AIが開発してきたAIエージェント技術です。

同社は複数のAIモデルを束ねて課題に応じて使い分けるオーケストレーション技術を主力に据えており、単一のモデルに丸ごと任せるのではなく、役割の異なるエージェントを組み合わせて長い工程を回す設計を得意としています。収集・分析・管理と工程が分かれている総合分析業務は、この設計と相性が良い領域です。

注意しておきたいのは、あくまで人間の意思決定を支援する位置付けだという点です。Sakana AIも、意思決定を支える高度で信頼性の高いAI機能の社会実装を進めるという書き方をしており、判断そのものをAIに委ねるという説明はしていません。

3月の指揮統制案件とは狙う階層が違う

Sakana AIは今年3月にも、防衛装備庁の防衛イノベーション科学技術研究所から、指揮統制システムの高度化に向けた基盤技術研究を受注しています。両者は同じ防衛分野ですが、対象としている階層が異なります。

3月の案件は、各部隊やセンサーから上がってくる情報を統合し、迅速かつ正確な指揮命令につなげるための技術でした。現場の運用に近い層です。これに対して今回は、安全保障政策全体を支える戦略的なインテリジェンス業務が対象になります。同社は、部隊運用に関わる指揮統制から国家レベルの政策決定を支える情報分析まで、一貫して取り組むと説明しています。

現場の指揮と、その上流にある政策判断。守備範囲を縦に広げた形で、日本の防衛における情報力の強化に関わろうとしていることが読み取れます。

防衛・インテリジェンス領域での積み重ね

同社がこの分野に踏み込んだのは今回が初めてではありません。2025年3月には、防衛装備庁と米国国防総省傘下のDefense Innovation Unitが共同で開催したコンペティションで、バイオディフェンスと偽情報対策の両部門に提案し、世界60社の応募のなかから受賞しています。

2026年に入ってからも動きは続いています。4月には総務省の偽・誤情報対策事業で、SNS空間の可視化から偽情報の判定、対策案の立案までを支援するシステムの開発を完了しました。7月にはサイバーセキュリティのベンチマークで高い性能を示すオーケストレーションモデル「Fugu-Cyber」を公開し、同月末には社内の防衛・インテリジェンスチームがOSINT分野の競技会「DIVER OSINT CTF 2026」で5位に入っています。研究成果の発表だけでなく、実務に近い場での検証も並行して重ねてきた形です。

同社は防衛・インテリジェンスを担うチームの拡大も進めており、ソフトウェアエンジニアやアプライドリサーチエンジニア、サイバーセキュリティエンジニア、プロジェクトマネージャーなど複数の職種で採用を続けています。

国産であることが持つ意味と、残る論点

海外製のAIを機微な情報の分析に使う場合、モデルの提供元や輸出規制の動向に運用が左右されます。国内の研究開発拠点を持つ企業が受注する意味は、この点にあります。Sakana AIも、国内のさまざまな用途で求められるソブリン性の要件に応じた技術を開発していく方針を示しています。

一方で、今回はあくまで調査・実証の段階です。どの工程にどこまでAIを入れられるのか、誤った分析結果が出たときに誰がどう責任を持つのか、機微な情報を扱う環境でモデルをどう隔離するのかといった論点は、これから詰められることになります。実証の成果がそのまま本格導入につながるかどうかも、現時点では見通せません。

まとめ

Sakana AIが防衛省と結んだのは、情報本部の総合分析業務にAIを適用できるかを見極める調査・実証の契約です。情報収集の効率化、分析能力の向上、体系的な情報管理という3点を軸に、同社のAIエージェント技術を試します。3月の指揮統制システム案件が現場の運用寄りだったのに対し、今回は政策判断を支える上流の情報分析が対象で、防衛分野での関与が縦に広がった形になります。実証がどこまでの成果を出せるかは、これからの評価を待つことになります。