Raspberry Piが、Compute Module 5専用の書き込み装置「Raspberry Pi Compute Module 5 Programming Jig」を投入しました。モジュールを所定のベイに差してクランプを閉じるだけで、OSの導入からセキュアブートやディスク暗号化の設定までを自動で流し込む1台完結型の治具です。価格は600ドル(約9万5,000円)で、世界の正規販売代理店を通じてすでに注文できます。

※1ドル159円換算(2026年8月25日時点)

1台作るのと、1,000台作るのは別の問題

Compute Module 5は、Raspberry Pi 5の中身を組み込み機器に載せやすい形へまとめた基板です。自社製品の頭脳としてこれを採用するメーカーは増えていますが、試作が動いた瞬間に次の壁が来ます。ハードウェア、ソフトウェア、ドキュメント、販売経路をひと通り整えたあと、同じものを何百台、何千台と同じ品質で作らなければならないという壁です。

その中でも地味に効いてくるのが、モジュール1枚ごとのOS書き込みと初期設定です。手作業でケーブルをつなぎ、コマンドを打ち、書き込みが終わったか目視で確かめる。1枚あたり数分でも、1,000枚なら丸ごと数日分の作業になります。今回の治具は、まさにこの反復作業を機械の側に押し付けるための道具です。

差して、閉じる。作業はそれだけ

使い方は拍子抜けするほど単純です。最初に治具側のソフトウェアを設定し、必要なポートをつないでおけば、あとはモジュールベイにCompute Module 5を差し込んでクランプを閉じるだけ。以降は人が手を出す場面がなく、書き込みが完了したかどうかはステータスLEDが知らせてくれます。

作業者に判断を求めない設計は、量産ラインではそれ自体が価値になります。手順書を読み込んだ担当者でなくても同じ結果が出せますし、書き込み漏れや設定違いといったヒューマンエラーの入り込む隙間も狭くなるからです。

背面のポート構成と、Ethernetを2本使う小技

背面には必要最小限のポートがまとまっています。治具本体用のEthernetと、書き込み対象となるCompute Module 5用のEthernetが別々に用意されており、治具のソフトウェアを手動で更新するためのUSBポートも備えます。動作を示すLEDも2つあり、治具側とモジュール側のどちらが何をしているのかを切り分けられます。

Raspberry Piによれば、治具用のJIG ETHとモジュール用のDUT ETHを同じネットワークにつなぐと、さらに処理を速められるとのことです。ポートを分けた構成を素直に守るより、あえて同じネットワークへ寄せたほうが速くなるという指示なので、量産ラインを組む際は覚えておいて損はありません。

中身はrpi-image-genとrpi-sb-provisioner

治具のソフトウェアは、ゼロから作られたものではありません。Raspberry Piが公開しているOS構築ツール「rpi-image-gen」と、自動プロビジョニング用の「rpi-sb-provisioner」が土台になっています。この2つが、セキュアブートの実装、ディスク全体の暗号化、素のOSインストールといった工程を引き受けます。

治具のOS自体もRaspberry Pi OS系の部品で組まれているため、既存のカスタマイズ用スクリプトや関数をそのまま流用できます。加えて、最近公開されたRaspberry Pi Imager v2.0.11でCompute Moduleへの書き込み機能が正式提供に格上げされており、これを使って治具のOS側にWi-Fiやセキュリティ、ユーザー設定などの要件を反映させられます。Raspberry Pi OSやRaspberry Pi Connect、rpi-sb-provisionerの改良がそのまま治具にも降りてくる、という点も現実的な利点です。

600ドルという価格の位置づけ

600ドルは、個人が趣味で買う機材としては明らかに高い部類です。ただし、この治具が想定しているのはホビー用途ではなく、Compute Module 5を組み込んだ製品を実際に売る事業者です。作業時間の短縮に加えて、セキュアブートやフルディスク暗号化を毎回同じ手順で確実に有効化できる点まで含めれば、投資として説明のつく金額だと思います。

書き込みヘッドは1つなので、超大量生産の現場では複数台を並べる運用になりそうです。それでも、独自に治具を設計・製造してソフトウェアの面倒まで見ることを考えれば、公式が保守するものを買ってしまうほうが早い場面は多いはずです。導入手順は公式のドキュメントページに、rpi-image-genとrpi-sb-provisionerはソフトウェアの配布ページにまとめられています。

まとめ

Raspberry Pi Compute Module 5 Programming Jigは、モジュールを差してクランプを閉じるだけでOSとセキュリティ設定を書き込む、量産向けの公式治具です。中身はrpi-image-genとrpi-sb-provisionerで、セキュアブートやディスク暗号化まで自動化できます。価格は600ドルで、正規販売代理店から注文可能です。Compute Module 5で製品を出す予定があるなら、量産工程の設計に入る前に検討する価値があります。