セキュリティ大手のPalo Alto Networksが、AIエージェントでIT運用の定型作業を肩代わりするスタートアップConsoleを買収しました。公式発表では金額が伏せられていますが、現金と株式を合わせて約5億ドル(約795億円)とされています。創業からわずか2年、社員が手を動かしていたパスワード再発行やアカウント権限の付け替えを自動化してきた会社が、セキュリティ運用基盤Cortexの一部として組み込まれます。
※1ドル159円換算
2年で評価額の3倍超に化けた買収額
Consoleが設立されたのは2024年です。調達実績は、620万ドル(約10億円)のシードと2,300万ドル(約37億円)のシリーズAの2ラウンドのみで、合計2,900万ドル(約46億円)にとどまります。シードを主導したのはThrive Capital、シリーズAはDST GlobalとThriveの共同リードでした。
売却直前の評価額は1億5,700万ドル(約250億円)と見られており、そこから約5億ドルでの売却ですから、投資家にとっては短期間で3倍超のリターンです。出資者にはSV AngelやAbstract Venturesが名を連ねますが、目を引くのはPalo Alto NetworksのCEOであるNikesh Arora氏がエンジェル投資家として個人で参加していた点です。自社が買い手になった案件に、トップが先に個人として乗っていた形になります。
「情シスの雑務」を覚えたエージェントを、セキュリティ運用に回す
Consoleが取り組んでいたのは、いわゆる情報システム部門の受付業務です。パスワードのリセット、FigmaやMiroといったツールのアクセス権付与、入退社にともなうアカウントの発行と停止、そして「動かない」という問い合わせへの一次切り分け。どれも判断そのものは難しくない代わりに件数が多く、担当者の時間を細かく削っていく作業ばかりです。これを人手を介さずに処理する仕組みとして、RampやFlock Safety、Scale AIといった企業に導入されていました。
Palo Alto Networksはこの機能を、AIで脅威の検知と無害化を自動で行うプラットフォームCortexに取り込むとしています。同社の説明によれば、セキュリティ担当者が自然言語でアラートの調査や解決を指示できるようになり、Cortexは検知した内容に対して実際に手を動かす「腕と脚」を得るという位置づけです。
構図としては素直です。アラートを見つける能力と、そのあと社内システムに手を入れて片付ける能力は、必要な技術が別物でした。前者は同社が長年積み上げてきた領域で、後者はConsoleが情シス業務で鍛えてきた領域です。片方だけでは「検知したのでご確認ください」で止まってしまうため、後者を買ってきたと読めます。
2026年に入って7件目、買い集めが止まらない
PitchBookの集計では、Consoleは2026年に入ってからPalo Alto Networksが実行した7件目の買収にあたります。同じ年に手中に収めた企業には、GreylockとLux Capitalが出資していた可観測性プラットフォームのChronosphereが評価額33億5,000万ドル(約5,330億円)、BatteryとTeam8が支援するセキュリティ新興のKoiが4億ドル(約636億円)で並びます。
年間7件というペースは、自社開発を待つよりも外から機能を買ってつなぎ合わせる方針がはっきり出た数字です。エージェント関連の要素技術は個々のスタートアップが先行しやすく、そのまま放置すると競合に押さえられます。5億ドルという価格も、単体の技術としては高く見えますが、Cortexの守備範囲を一段広げる部品代と考えれば説明はつきます。
買われなかったServalが、そのまま本命に残る
Consoleが主に競合していたのは、同じくITサービス管理の自動化に取り組むServalです。こちらは昨年12月にSequoiaが主導する7,500万ドル(約119億円)のシリーズBを実施し、評価額10億ドル(約1,590億円)に到達しています。AIによる技術サポートから始まり、人事や法務、財務の問い合わせ対応まで守備範囲を広げてきました。
ある投資家は、Consoleが買われたことでServalがこの分野の筆頭候補として残ると見ています。両社が狙っているのは、長らくServiceNowが押さえてきた企業内の問い合わせ処理という市場です。既存の大手が持つワークフローの土台に対して、AIエージェント側から食い込もうとする動きが、いま買収と資金調達の両方で加速している状況といえます。
まとめ
Palo Alto NetworksによるConsole買収は、AIエージェントの評価軸が「何を答えられるか」から「何を実行できるか」に移りつつあることを示す一例です。約5億ドルという価格は評価額の3倍を超えますが、検知したあとの処理を自動化できる部品として見れば、同社が急いだ理由も分かります。ITサービス管理の自動化を巡る競争は、ServiceNowという既存勢と、Servalのような独立系、そしてセキュリティ大手の3者が絡む形へ広がっていきそうです。
