OpenAI が、ブラジルでの商業運営の開始を公式ブログで発表しました[1]。拠点はサンパウロで、現地チームが企業・開発者・研究機関・公的機関と直接やり取りする体制に移ります。ブラジルは ChatGPT の週間アクティブユーザー数で世界の上位3市場に入り、1日あたり約2億1500万件のメッセージが送られています。教育・医療・研究・行政の各分野で提携も同時に公表されました。
サンパウロを拠点に現地チームを設置
商業運営の正式スタートは、8月18日にサンパウロで開かれたイベントで告知されました[2]。これまでブラジルのユーザーはグローバルのサービスを使うだけの立場でしたが、今後は現地チームがブラジル企業の導入支援や公的機関との協業を担当します。
規模を示す数字として、ブラジルのユーザー数はこの1年でほぼ倍増しました[1]。ChatGPT Enterprise のシート数は前年比5倍に増え、法人顧客数でもブラジルは OpenAI にとって上位10市場に入っています。開発者側の伸びも大きく、OpenAI API を使う開発者数ではブラジルが世界2位です。コーディング支援の Codex についてはラテンアメリカ最大の市場で、2026年に入ってから週間ユーザー数は11倍以上、1日あたりの利用回数は約30倍に増えました。
数字だけを見ると「使われている国」という話に見えますが、OpenAI 側が現地法人を置く判断をした背景には、利用の中身が変わってきたという読みがあります。
業務利用の比率は世界平均を上回る
2026年6月時点で、ブラジルの個人 ChatGPT アカウントから送られたメッセージのうち、分類済みのものの35パーセントが仕事に関連する内容でした[1]。同時期のグローバル平均は30パーセントなので、業務利用の比率が世界平均より高いことになります。
さらにその仕事関連メッセージの53パーセントは、単なる質問ではなく、提案書の作成や情報分析、コードの記述、マーケティング素材の作成といった具体的な成果物を求めるものでした[1]。試しに触ってみる段階から、日常業務の一部として組み込む段階へ移りつつあるという整理です。
OpenAI が資金を提供して RegLab が実施した独立調査では、AI の普及によって2030年までにブラジル経済へ1兆レアル近くが上積みされる可能性があると試算されています[1]。より具体的には、2027年から2030年にかけて9867億レアル(約31兆円)という数字が示されました[2]。ただしこれは生産性向上を前提にした予測であり、インフラ整備や人材育成の進み方に左右されると但し書きが付いています。
※為替レート(2026年8月27日時点):1ブラジルレアル=31円、1米ドル=159円
教育・医療・行政に広がる提携
今回あわせて公表された取り組みは、産業向けというより社会インフラ寄りのものが並びます[1]。
| 分野 | 内容 |
|---|---|
| 教育 | Instituto Tecnológico de Aeronáutica(ITA、航空技術大学)の学生・教員・職員に ChatGPT Edu アカウントを提供。推論モデルや Codex 用のクレジットも付与 |
| 研究 | Instituto de Matemática Pura e Aplicada(IMPA、純粋応用数学研究所)が、研究機関が AI を科学的成果につなげるために必要な条件を調査 |
| 医療 | Hospital das Clínicas da FMUSP(HCFMUSP、サンパウロ大学医学部附属病院)が、ブラジルの公的医療制度向けの臨床情報基盤の試作品を評価 |
| 法務 | 法曹分野のブラジル企業 ENTER と共同で、法律実務者向けの全国規模の AI リテラシー教育プログラムを開発 |
| 中小企業 | Estímulo とともに、零細・小規模事業者向けにモバイル前提の無料 AI 研修を提供 |
| 行政 | サンパウロ市および同市の情報処理会社 Prodam と、行政での AI 活用に関する覚書を締結 |
研究分野の助成については、IMPA と HCFMUSP は OpenAI が選定した14の独立プロジェクトに含まれており、全体で100万ドル(約1億6000万円)の資金と、最大100万ドル分の API クレジットが配分されます[2]。HCFMUSP の研究では合成データまたは非識別化データを用い、結果の公表は2027年の予定です。医師の判断と人間による監督を残す設計になっている点が明記されています[1]。
なお、ブラジルでは広告事業も先行して動いており、ChatGPT Ads は8月11日から提供されています[2]。無料プランと Go プランの成人ユーザーに広告を表示する仕組みで、広告は回答とは分離され、生成される内容には干渉しないと説明されています。
開発者イベントと現地クリエイターとの接点
商業運営の開始に先立ち、OpenAI は開発者向けロードショー「OpenAI para Devs」をレシフェ、リオデジャネイロ、フロリアノポリス、サンパウロの4都市で開催し、285人の開発者やスタートアップのエンジニア、創業者らが参加しました[1]。すべてポルトガル語で実施され、技術セッションや Codex のライブデモ、ハンズオンのワークショップが行われています。
締めくくりとして開かれたハッカソン「OpenAI Hackathon Brasil」では、優勝チームが Codex だけで試作品を作り上げました[1]。公開データを使い、事業者が自分のビジネスを音声で説明すると、条件に合う公共調達の案件と応募資格を照合し、近隣の公的需要を地図上に示すという内容です。中小事業者にとって手続きの壁になりがちな公共調達を、数時間で扱えるツールに落とし込んだ形になります。
利用の傾向にも地域性が出ています。ブラジルは ChatGPT Images の利用率が世界で最も高く、音声入力・ディクテーションでも上位5市場に入ります[1]。週間の音声利用者数はこの1年で倍増しました。こうした背景から、OpenAI はサンパウロで同社として初めてとなる Creators Day を開催し、現地のクリエイターとの継続的な取り組みを始めています。
まとめ
OpenAI のブラジル進出は、単なるオフィス開設ではなく、すでに世界の上位3市場に入る利用規模を持つ市場に導入支援と提携の受け皿を置く動きです。業務利用比率が世界平均を上回り、API 開発者数が世界2位という状況を踏まえると、法人向けの売上を取りに行く体制づくりという性格が強いと言えます。一方で、1兆レアル近い経済効果という試算はあくまで前提付きの予測であり、教育や行政との提携もまだ規模や時期が示されていないものが多く残っています。実際の成果が見えてくるのはこれからです。
出典: https://openai.com/index/expanding-our-presence-in-brazil/
出典: https://www.poder360.com.br/poder-tech/openai-inicia-operacao-no-brasil-e-anuncia-parcerias/
