NVIDIAが、データセンター向けとしては初の単体CPU「Vera」について、中国の顧客から注文を受け付け始めました。出荷は早ければ8月にも始まる見通しです。Veraは88個のArmコアを束ね、複数のAIエージェントを動かす処理に最適化した製品で、GPUに偏ってきた同社の事業を広げる一手になります。米国の輸出規制でGPUの対中販売が凍結されるなか、規制の対象になりにくいCPUを足がかりにする狙いも見えてきました。

Veraはどんなプロセッサーか

Veraは、NVIDIAが2026年3月のGTCで詳細を公開したデータセンター向けCPUです。これまで同社のサーバー製品はGPUが主役で、CPUはGPUに添える形で組み合わせるのが基本でした。Veraはその関係を変え、CPU単体で売り込める初めての製品になります。すでに本格生産に入っています。

中身はNVIDIAが自社開発した「Olympus」コアを88基並べた構成で、命令セットはArmv9.2に対応します。1つのコアが2つの処理の流れ(スレッド)を同時にさばく仕組みにより、合計176スレッドを扱えます。1基あたり最大1.5TBのLPDDR5Xメモリと毎秒1.2TBのメモリ帯域を備え、大量のデータを高速にやり取りできる設計です。

性能面では、88基のコアを分割せず1つのまとまりとして扱う点が特徴です。多コアのx86系CPUでは、コア群がいくつかのグループに分かれ、グループをまたぐデータのやり取りで遅延が生じがちでした。Veraはこの区分けをなくし、コア間のやり取りを滑らかにしています。NVIDIAは前世代比で1クロックあたりの処理量(IPC)が1.5倍に高まり、実効性能でおよそ50パーセント向上したと説明しています。

なぜ「エージェントAI向け」なのか

Veraが狙うのは、自律的に作業をこなすエージェントAIの実行です。チャット型AIが1回の問いかけに1つの答えを返すのに対し、エージェントは目標を多数の手順に分解し、コードのコンパイルやデータベース検索、ウェブ閲覧といった処理を挟みながら反復します。こうした流れではCPUが受け持つ仕事が増えるため、GPUだけでなく強力なCPUが効いてきます。

NVIDIAは、Veraを256基まとめて液冷で搭載する専用ラックも用意しました。前世代のCPU構成と比べ、CPU処理のスループットが最大6倍、エージェントAIの処理性能で2倍に達するとしています。AIの主戦場が、モデルを学習させる段階から学習済みモデルを動かす「推論」へと移りつつあるなか、推論時にCPUへかかる負荷の高まりを取り込もうという位置づけです。CPU需要は逼迫しており、Intelは中国の顧客に半年待ちを提示しているとも伝えられています。

価格と事業規模

Veraは安価な製品ではありません。1基あたりの価格は割引前で2万ドル(約320万円)を大きく超えるとされ、256基を積んだ1ラックではおよそ1,000万ドル(約16億円)に達します。NVIDIAは2027年1月末までにVeraで200億ドル(約3.2兆円)の売上を見込んでいます。

※1ドル=160円で換算

初期の利用者にはAnthropicやOpenAIといったAI開発企業が名を連ねています。CPU市場はこれまでIntelとAMDがx86系で押さえてきた領域であり、GPUで圧倒的な存在になったNVIDIAがプロセッサー本体の市場にも本格的に踏み込む形になります。

中国市場への「裏口」

今回の受注開始で見逃せないのが、対中ビジネスの文脈です。NVIDIAの中国事業は米国の輸出規制で大きく落ち込み、第2位の性能を持つAIチップ「H200」の出荷も止まったままとされています。規制が主に高性能GPUを対象とし、汎用CPUは対象になりにくい点に、Veraが入り込む余地があります。ただし、Veraのような先進的なCPUに輸出許可が必要かどうかは、なお不透明な部分が残ります。

中国側の動きはまだ慎重です。ある大手クラウド事業者は1台あたりVeraを2基積んだサーバーを300台以上発注し、まずは試験運用に充てる計画だと報じられています。当面は中国国内ではなく海外のデータセンターで動かす想定で、本格導入はソフトウェアの互換性や、国産チップから乗り換えるコストに左右されます。中国は半導体の自給自足を強く進めており、自前の代替チップを育てる一方で、AlibabaやByteDanceがVeraの協力先に挙がるという入り組んだ状況も生まれています。

まとめ

Veraは、88コアのArm設計とエージェントAIへの最適化を売りにした、NVIDIA初の単体データセンターCPUです。GPUで築いた優位をCPU市場にも広げる製品であると同時に、GPUの対中販売が凍結されたなかで規制の手が及びにくいCPUを足がかりにする一手でもあります。中国の顧客が本格採用に踏み切るのか、それとも試験運用にとどめるのか。8月という出荷の節目が、その最初の試金石になりそうです。