Metaが9月8日、個人向けのAIエージェント「Muse」を米国で公開しました。質問に答えるだけでなく、メール送信や旅行の予約といった作業を本人の代わりに進めるのが特徴です。エージェントは専用の仮想マシンの中で動き、外部への通信は別のエージェントが逐一チェックします。無料枠に加えて月20ドルと月100ドルの有料プランが用意されました。

「答える」から「やっておく」へ

Museの位置づけは、従来のチャットボットの延長線上にありません。Metaが説明するのは、頼まれた用件を実際に片付ける存在としてのエージェントです。メールを1通送る、レストランを押さえるといった単発の作業はもちろん、もっと漠然とした目標を渡しても受け止めます。目標を共有すると計画に落とし込み、時間や予算の配分を整理したうえで、本人が別の作業をしている間も裏側で前に進めるという流れです。

作業中はブラウザーを自分で開き、フォームに入力し、必要なら条件の交渉まで行います。時間のかかる案件はアプリを閉じたあとも継続し、状況が変わったときや、メール送信や購入のように影響の大きい操作に踏み込む直前で本人に確認を取りに戻ります。使い勝手の面では、専用アプリのほかWhatsAppからも同じように話しかけられる点が目を引きます。新しい操作体系を覚えさせるのではなく、人にメッセージを送る感覚のまま使わせる作りです。

記憶の扱いも作り込まれています。一度しか話題に出さなかった好みを覚えていて、頼まれていない提案を差し込んでくることがあります。Metaが挙げた例では、Instagramで保存したレシピの動画を買い物リストに変換したり、招待状を送る前に友人の食べ物の制限を思い出したりといった動作が紹介されました。

支払いはStripeのLink経由、保護も付く

エージェントに買い物をさせるうえで避けて通れないのが決済です。MuseはStripeが手がけるLinkで支払いを済ませられます。Linkの購入保護が適用される最初のAIエージェントとされ、破損や紛失の補償、値下がり時の対応、手数料なしの返品、対象商品の返品保証が無償で付きます。

仕組みとしては、エージェント用のウォレットが使い捨てのカード番号を発行し、本物のカード情報は伏せたまま各サイトで決済します。今後はShop Payによる支払いと、1Passwordとの連携も予定されています。後者が入ると、本人が普段使っているログイン情報をMuseがそのまま扱えるようになります。

権限を握るのはMuseではなくSentinel

このジャンルで真っ先に気になるのは、どこまで自分のデータを預けるのかという点でしょう。Museはメール、カレンダー、金融、健康・フィットネス、スマートホームといった生活まわりのサービスに接続して初めて力を発揮する設計で、裏を返せば預ける情報の量は相当なものになります。

Metaがそこに用意したのが「Muse Secure VM」です。エージェントとその人のデータは、クラウド上に確保された専用の仮想マシン(VM、1台の物理サーバー上に区切って作る仮想的なコンピューター)の中に閉じ込められ、他人のエージェントからは手が届きません。接続したサービスの認証情報もこの中に保管されます。

さらに同じマシン上に、Museとはシステムレベルで隔離された「Sentinel」という別のエージェントが常駐します。Museが何をしようとしても、Sentinelが許可しない限りインターネットには出ていきません。Sentinelは操作を許可・拒否・本人へ確認の3通りに振り分ける役割を担い、権限もサービス単位、取引単位、期間単位といった細かさで絞れます。読み取りだけを許して送信は禁じる、といった指定も可能です。

Museはパスワードや決済手段そのものを見ることができません。本人がブラウザーに直接入力したパスワードも含め、認証情報は保管領域に入り、Museは中身を見ないまま使う形になります。実行した操作と、これから実行する予定の操作は監査ログとして一覧できます。学習利用については、既定ではMetaのモデル改善に使われますが、設定で無効にできます。会話やVM内のデータが広告システムに回ることはないとMetaは明言しました。年内には、VM全体を本人しか持たない鍵で暗号化する「Muse Confidential VM」を投入する計画です。

もっとも、確認の求め方そのものが難しい問題であることは、Meta側も認めています。細かい操作のたびに承認を求めれば、利用者は中身を読まずに押すようになり、かえって安全性が下がります。Museは影響の大きい操作でだけ確認を挟み、一度許可した低リスクの作業はそのまま通す設計にしたと説明されています。実際、AIエージェントに権限を渡した結果メールやファイルが消えたという事例は今年に入って複数報告されており、慎重さの理由は十分にあります。

提供範囲と料金

Museは米国から提供が始まり、iOS、Android、Webで利用できます。MetaのAIグラスへの対応も近く追加される予定です。動かしているのはMetaが自社で開発した「Muse Spark」で、同社は現時点で最も能力の高いモデルと位置づけています。

料金は、多くの用途は無料枠で足りるという想定のもと、月20ドル(約3,000円)と月100ドル(約15,000円)の2つの有料プランが用意されました。Metaの最高AI責任者であるAlexandr Wang氏は、有料プランは計算資源のコストを賄うためのものだと説明しています。Muse自体に広告は入りませんが、同社は商取引を通じた収益化の可能性を探っているとしています。

※1ドル153円換算(2026年9月9日時点)

まとめ

MetaのMuseは、頼まれた作業を実際にこなす個人向けAIエージェントです。専用の仮想マシンで動き、外部との通信はSentinelという別のエージェントが許可・拒否・本人確認に振り分けます。決済はStripeのLinkを介して行われ、購入保護も付きます。米国のiOS、Android、Webで公開され、無料枠のほか月20ドルと月100ドルのプランが選べます。メールから金融まで生活の中枢を預けるだけの信頼を得られるかどうかが、今後の分かれ目になりそうです。