テニスの4大大会の1つ、US Openが2026年8月23日に開幕しました。今大会の公式サイトと公式アプリには、サーブの出来を数値化する新指標や、試合の流れが変わった瞬間を拾い出す機能が加わります。IBMと全米テニス協会(USTA)が8月24日に明らかにしたもので、サーブの解析だけで大会期間中に約12億点のデータが生まれる計算です。

体とラケットの21点を、毎秒50回追いかける

新指標「Serve Quality」は、1本のサーブがどれだけ良いサーブだったのかを点数で示します。対象はシングルスの全254試合です。手足の動きを追跡する技術を使い、体とラケットに設定した21カ所のデータを毎秒50回の頻度で取得します。手首の返り具合から、脚で生んだ力が体幹を通って伝わっていく様子まで拾える細かさです。

集めた数値は、効率、正確性、安定性、トスの4つの観点で整理されます。コートから途切れなく流れてくるデータの取り回しにはIBM Confluentが使われ、採点結果はほぼリアルタイムで観客の画面に届きます。速いサーブが必ずしも良いサーブとは限らない、という感覚的に語られてきた部分に、はじめて共通の物差しが用意されたことになります。

「誰が有利か」から「なぜそうなったか」へ

すでに定着している「Likelihood to Win」は、その時点でどちらの選手が勝ちそうかを確率で示す機能です。現在と過去の成績、専門家の見立て、試合の流れをAIが読み込んで計算します。

今大会ではここに「Key Moments」が加わります。試合中に起きた振れ幅の大きい場面や、流れが入れ替わった転換点をまとめて提示する機能で、こちらもシングルス全試合が対象です。確率のグラフが上下した理由を後から言葉で確認できるため、途中から見始めた人でもそこまでの経緯を追いやすくなります。

公式サイトのトップページも刷新されました。新しい「Live Updates」では、応援している選手を優先表示に設定でき、大量の試合情報のなかから自分の関心に近いものだけを手早く拾えます。

質問に会話で答える相棒、写真や映像も返す

対話機能の「Match Chat」も手が入りました。試合を見ながら思いついた疑問を普段の言葉で投げると、その場で会話形式の答えが返ってきます。今回からは文章だけでなく、関連する写真や映像を添えて返すケースも出てきます。

土台になっているのはIBMのwatsonx Orchestrateです。複数のAIエージェントと、用途を絞って調整したモデルを組み合わせており、USTAの編集方針とテニス特有の言い回しを学習させてあります。中継の実況とかけ離れた口調にならないよう、あえて汎用のチャットとは別に仕立てた格好です。参照先も広げられ、試合中のライブデータに加えて分析や過去の記録まで踏まえた回答になります。

機能を作ったのは、IBM自身のAIエージェント

興味深いのは、サーブ解析に使う手足追跡の仕組みがIBM Bobを使って開発された点です。IBM Bobは同社が提供するAIコーディングエージェントで、設計から実装、テスト、保守までを一括で受け持つことを掲げています。自社のAI開発ツールで自社のAI機能を作る、という流れがそのまま実務で回っている事例と言えます。

求められているのは速さより正確さ

発表と同じ日に、IBMがMorning Consultに委託した調査結果も公開されました。世界のテニスファンのうち91パーセントが試合中にスポーツアプリを使っており、AIが生成したスポーツ関連の内容について64パーセントが高い信頼を寄せているという内容です。IBMはこの結果を、デジタルの観戦体験で問われているのは速さよりも正確さだ、という方向に読んでいます。

IBMとUSTAの協業は1992年に始まり、年間1,400万人を超えるテニスファンに向けたデジタル体験を作ってきました。USTAでデジタル戦略を統括するBrian Ryerson氏は、今年の取り組みがファンとの接点の在り方を大きく変えたと述べています。IBMで渉外部門を率いるJonathan Adashek氏も、コートから流れ込む大量のデータを業務の流れに自動で載せ、使える示唆として数分から数時間で返せる点を強調しました。

2026年のUS Openは9月13日まで開催されます。紹介した機能はいずれもUSOpen.orgと公式アプリで利用でき、アプリはApple、Androidの両ストアで配布されています。

まとめ

IBMとUSTAが、2026年のUS Open向けに3つのAI機能を投入しました。全254試合のサーブを毎秒50回、21カ所の計測点で解析する「Serve Quality」、勝敗確率の変化した理由を示す「Key Moments」、そしてwatsonx Orchestrateで動く対話機能「Match Chat」です。手足追跡の開発にはIBM Bobが使われており、AIで作ったAI機能がそのまま観客の手元に届く構図になっています。数字の裏取りをどこまで見せるかは今後の課題として残りますが、観戦の解像度を上げる方向で使われている点は評価できます。

参考リンク