AIのセキュリティを専門に手がける米HiddenLayerが、シリーズBで1億ドル(約156億円)を調達しました。主導はDelta-v Capitalで、MicrosoftのベンチャーファンドM12やMorgan Stanleyも名を連ねています。資金の使い道として前面に出ているのは、コードを書いて出荷するAIエージェントを、動いている最中に監視して止める仕組みの拡張です。
※1ドル156円換算(2026年9月上旬時点)
累計調達額は1億5,500万ドル超へ
HiddenLayerは2022年創業、米テキサス州オースティンに拠点を置きます。今回のラウンドで累計調達額は1億5,500万ドル(約242億円)を超えました。直前のシリーズAが5,000万ドル(約78億円)でしたから、1回でそれを上回る額を積み増したことになります。
投資家の顔ぶれには特徴があります。主導のDelta-v Capitalに加わったのは、Booz Allen Ventures、MicrosoftのM12、Morgan Stanley、Ten Eleven Venturesの4社です。防衛・情報分野に強いコンサルティング系のファンドと、金融大手と、クラウド事業者の投資部門が同じ列に並んでいる構成で、同社の顧客層がどこにあるのかがそのまま表れています。
共同創業者でCEOのChris Sestito氏は、企業がAIの安全な利用を急ぐ前から取り組んできたと述べ、エージェント型AIが業務の中心になる局面に合わせて人と製品を増やすと説明しています。
守る対象は「AIそのもの」
同社のプラットフォームは、AIを使ったシステムを守るための機能を一通り抱えています。組織内でどこにどのモデルやエージェントが存在するのかを洗い出すディスカバリー、外部から持ち込むモデルやデータの経路を検査するAIサプライチェーンセキュリティ、実際に攻撃を模して弱点を探す攻撃シミュレーション、そして稼働中の挙動を見張るランタイム保護の4つです。
対象は生成AIだけではありません。予測モデルやエージェントまで含めた一連のライフサイクルを範囲としており、モデルそのものの保護や知的財産の流出防止も守備範囲に入ります。従来のセキュリティ製品がアプリケーションやネットワークを見てきたのに対し、モデルとエージェントの層を専門に見る位置取りです。
コーディングエージェントが監視の外にいた
今回の増資で名指しされている強化点が、AIコーディングエージェントの保護です。同社は8月3日に、ランタイム保護のモジュールを拡張するAgent Harness Securityを公開しています。
この機能は、各コーディングエージェントが持つ標準のフック(処理の途中に割り込むための接続点)に直接組み込む形をとります。プロンプトインジェクション、機密情報の露出、危険なコマンドの実行を、起きたその場で検知して遮断する設計です。モデルに渡る前に機微な情報を伏せる、汚染されたツールの応答からエージェントを引き離す、危険な操作を実行前に止める、といった動きが想定されています。
セキュリティ担当者の側から見ると、プロンプト、ツール呼び出し、シェルコマンド、ファイル編集、リポジトリ操作までがまとめて見えるようになります。人間のレビューを介さずにコードが書かれて出ていく流れが増えるほど、どこで何が起きたのかを後から追える状態が要ります。調査会社のGartnerは、2028年までに企業のソフトウェアエンジニアの90パーセントがAIコードアシスタントを使うと予測しています。2024年初めの時点では14パーセント未満でしたから、監視の対象が数年で一気に広がる前提です。
立ち上がりの数字は出ている
事業側の数字もいくつか公表されています。年間経常収益(ARR)は直近12か月で10倍以上に伸び、純増の新規顧客は50社を超えました。内訳として挙がっているのは銀行、保険、製薬、航空、そして米国の国防・情報コミュニティです。
技術面では、敵対的入力の検知、モデル保護、AIへの脅威分析にまたがる特許を39件取得し、65件を出願中としています。2022年創業の企業としては厚めの積み上げで、研究に人を割いてきた形跡が読み取れます。
一方で、企業価値や売上高の実額は明かされていません。10倍という伸び率も、起点が小さければ達成しやすい数字です。評価が固まるのは、エージェント型AIの導入が本格化した後の更新率を見てからということになりそうです。
「実行時に見る」が主戦場になりつつある
AIのセキュリティは、これまで導入前の検査に重心がありました。モデルに問題がないか、学習データに毒が混ざっていないか、公開前に確かめるという発想です。ところがエージェントは、与えられた道具を自分の判断で使い、環境から受け取った文字列に従って次の行動を決めます。事前の検査だけでは、動き出した後の振る舞いを保証しきれません。
HiddenLayerが実行時の可視化と遮断に資金を寄せているのは、この構造の変化に沿った動きです。同じ発想の製品は増えており、エージェントの行動を審査したり、公開前に遮断したりするサービスがここ数か月で相次いで資金を集めています。守る対象がモデルからエージェントの行動そのものへ移りつつある、という点では業界全体の方向がそろってきました。
まとめ
HiddenLayerはシリーズBで1億ドルを調達し、累計調達額を1億5,500万ドル超に伸ばしました。投資家にはBooz Allen VenturesやMicrosoftのM12が並び、資金は主にAIコーディングエージェントの実行時保護に向かいます。8月に公開したAgent Harness Securityは、エージェントのフックに割り込んでプロンプトインジェクションや危険なコマンドをその場で止める設計です。企業価値や売上の実額は伏せられたままですが、AIセキュリティの主戦場が導入前の検査から実行中の監視へ移りつつあることは、この調達の中身からはっきり読み取れます。
