米国の医療スタートアップForusが9月8日、1億5,000万ドル(約230億円)のシリーズCを実施し、評価額が30億ドル(約4,600億円)に達したと発表しました。処方箋1枚ごとに専用のAIエージェントを割り当て、保険の事前承認や自己負担の軽減手続きを自動でさばくという設計です。数か月前のシリーズBから評価額は3倍になりました。

※1米ドル=154円換算(2026年9月9日時点)

既存株主だけで組まれたインサイドラウンド

今回のラウンドを主導したのは、シードから同社を支えてきたBain Capital Venturesです。新規の投資家を入れず、既存の機関投資家が全員そのまま再投資したインサイドラウンドという構成で、Thrive Capital、General Catalyst、Accel、Redpoint、BoxGroup、Pear VC、Avra、Human Capital、Neo、Vast Ventures、SV Angelが名を連ねています。

これで累計の株式調達額は3億ドル(約460億円)を超えました。シリーズBからわずか数か月で評価額が3倍になった計算で、外部から新しい値付けを持ち込まずに既存株主だけで積み増している点は、業績の伸びを間近で見ている側の判断としてそれなりに強い意思表示だと言えます。

3人に1人が最初の1回すら受け取れない

Forusが狙っているのは、高額療法や複雑な疾患の領域で起きている取りこぼしです。同社の説明では、こうした治療薬を処方された患者のうち3人に1人は、最初の1回分すら手にできていません。受け取れた患者にしても、数週間から数か月待たされることが珍しくないとされます。

原因になっているのが、米国の民間保険で広く使われている事前承認(プライアオーソライゼーション)と、自己負担額を確定させるための金銭面のクリアランスです。医師が薬を出すと決めた後に、保険会社への申請、否認された場合の不服申し立て、患者負担を下げるための支援プログラムへの登録、専門薬局の手配といった事務作業が積み上がり、そこで治療が止まります。処方の判断ではなく、その後ろに続く手続きが患者を待たせているという構図です。

処方箋1枚に1体、電子カルテの中で動くエージェント

Forusは2023年にSahir Jaggi氏が創業した会社で、処方する医師、小売薬局と専門薬局、民間保険会社、製薬企業の営業部門をつなぐネットワークとして自社を位置づけています。医療機関にも患者にも無料で提供されており、条件を満たした処方箋には専用の自律型AIエージェントが1体割り当てられます。エージェントは電子カルテ上の業務フローの中に組み込まれて動くため、医師や事務スタッフが別のシステムを開き直す必要はありません。

各エージェントは、担当者を1人付けたケースマネジメントに近い動き方をします。患者の診療記録、加入している保険の給付ルール、利用できる支援制度を突き合わせたうえで、薬が患者に届くまでの経路を組み立てるという流れです。同社が挙げている効果は3つあります。

1つ目は事前承認の短縮です。臨床上の適応と、保険会社ごとに変わる給付方針を機械的に照合することで、数週間かかっていた承認を48時間未満まで縮められるとしています。2つ目は費用支援の自動化で、製薬企業のコペイカード、財団の助成金、自己負担ゼロで受けられるアクセスプログラムのうち、患者が使える制度をその場で結び付けます。3つ目が専門薬局の手配です。在庫が確認できているネットワーク内の調剤薬局へ処方を直接回すことで、複雑な治療の開始までを数か月から1〜2週間に縮められるとしています。

リウマチ科で医師の3分の1超、大手製薬15社中9社と協業

展開の広さも数字で示されています。全米50州の医療従事者がForusを使っており、対象となる患者は米国の住宅用郵便番号の85パーセントをカバーしているとのことです。

最初に本格展開した診療科であるリウマチ科では、米国内の該当する医師の3分の1超が導入済みとされます。その後に広げた複数の診療科でも、2桁パーセントの導入率まで伸びているという説明です。専門薬の中でも自己免疫疾患の生物学的製剤のように、事前承認と費用支援の負荷が特に重い領域から入った形になります。

このネットワークが集める情報にも、もう1つの価値が生まれています。処方がどの工程で止まっているのか、実際の臨床現場で治療がどう使われているのかが見えるためです。同社はすでに世界の大手製薬15社のうち9社と組み、新薬の販売立ち上げの改善や、治験プロトコルの設計見直しに役立てているとしています。医師の事務負担を減らすツールとして始まったものが、製薬企業向けの実世界データ基盤としても機能し始めているわけです。

創業者のJaggi氏は、全米すべての診療所にこの仕組みを置き、科学が到達した最良の薬がそれを必要とする人に届く状態を目指すと語っています。

まとめ

ForusのシリーズCは、新薬そのものではなく、薬が患者に届くまでの事務手続きに投資が集まった事例です。事前承認を48時間未満に縮める、支援制度をその場で結び付けるといった機能は派手ではありませんが、3人に1人が最初の1回すら受け取れないという状況を前にすると、効き目は大きくなります。AIエージェントの用途としては、既存の業務フローの内側で終わらない事務を片付けるという、地味で確実な方向性を選んだ会社と言えそうです。