Microsoftが、Excelのセルに直接AIを呼び出せる「=COPILOT()」関数を2026年9月14日で廃止します。2025年8月にプレビュー提供が始まった機能で、正式版に昇格しないまま姿を消すことになりました。同じ日付でロードマップ上の正式提供予定も取り下げられており、単なる仕様変更ではなく機能そのものの撤回です。数式の中でAIを動かすという発想が、表計算ソフトの土俵ではどう扱いにくかったのかを整理します。

撤退は「延期」ではなく「取り下げ」

Microsoftは2026年8月13日、Microsoft 365のメッセージセンターを通じて、Excelの「=COPILOT()」関数を9月14日に廃止すると通知しました。9月14日以降、この関数はExcelから取り除かれ、新しい数式で呼び出すことはできなくなります。管理者側で必要な作業はないとされています。

注目したいのは、同じ8月13日にロードマップ側の記載も書き換わっている点です。Windowsデスクトップ版、Mac版、Web版のそれぞれに正式提供の予定項目が立っており、いずれも2027年1月の全世界提供を目標としていました。それが3件そろって「この機能を前に進めないことを決定した」という記述に差し替えられています。正式版の5カ月前で計画ごと畳んだ形で、代替の実装や移行計画は示されていません。

つまり、プレビューの一時停止でも仕切り直しでもなく、機能としての終了です。Microsoftが公式に挙げている理由は「Excel内のCopilot体験を整理するため」という一文にとどまっており、それ以上の技術的な説明はありません。

セルの中でAIが動く、という設計だった

「=COPILOT()」は、2025年8月にMicrosoft 365 InsiderとFrontierの両プログラム向けにテスト提供が始まった関数です。引数にプロンプトを書き、必要に応じてセル範囲を渡すと、AIモデルの応答が数式の結果として返ってきます。動的配列として複数セルにスピルさせることもできました。

面白かったのは、Excelの計算エンジンに組み込まれていた点です。参照先のセルが書き換われば、AIの出力も自動で再計算されます。SUMやVLOOKUPと同じ感覚で、分類や要約といった作業を表の中に埋め込めるわけです。アンケートの自由記述をカテゴリー分けする、商品名の並びから説明文を起こす、といった処理を、シートのロジックの一部として持てる点は他の手段では代えがたい部分でした。

一方で、扱いには前提条件がついて回りました。利用にはCopilotのライセンスとインターネット接続が必須で、呼び出し回数にも上限があります。10分あたり100回までという制限があり、これを超えると該当セルには #CONNECT エラーが表示されます。1セルで動いた数式を列方向にコピーすると、行数の分だけ個別のリクエストが飛ぶため、数百行の表では簡単に上限に触れてしまう構造でした。

さらに根本的な引っかかりとして、結果が決定論的でないという性質があります。モデルが更新されたり、再計算のタイミングが変わったりすれば、同じ数式が同じ値を返す保証はありません。合計や平均のように、いつ開いても同じ答えが出ることを前提にする関数群の隣に置くには、性格が違いすぎたと言えます。共有ブックで他人が開いたときにライセンスの有無で結果が変わる点も、配布物としては扱いづらいところでした。

移行先はサイドペイン、ただし同じものではない

Microsoftが代替として案内しているのは、Excelの「Copilot」サイドペインです。テキストの要約、データの分類、コンテンツの生成、Webからの情報取得といったタスクは、こちらでも処理できるとしています。「=COPILOT()」関数でやっていた作業の多くはカバーできる、というのが公式の説明です。

ただし、機能としては別物です。サイドペインはあくまで対話の窓口で、シートの中に住み着く数式ではありません。参照先が変わったら自動で追随する、結果が範囲にスピルする、ブックのロジックとして残り続ける、といった関数ならではの振る舞いは引き継がれません。定型のパイプラインを数式で組んでいた場合、その部分は作り直しになります。

Microsoftが管理者向けに挙げている推奨事項も、この前提に沿ったものです。社内の研修資料やドキュメントに「=COPILOT()」への言及が残っていないかを確認すること、対象ユーザーに廃止を周知してサイドペインへ誘導すること、そしてこの関数に依存している業務フローを洗い出して移行先を検討すること、の3点が示されています。

9月14日までにやっておくこと

すでにブックの中で「=COPILOT()」を使っている場合、9月14日以降はその数式が動かなくなります。出力された内容を残したいのであれば、期限までに値へ固定しておくのが確実です。対象セルをコピーしたうえで、値の貼り付け(Ctrl+Shift+V)を実行すれば、数式ではなくテキストとして残ります。

該当セルの洗い出しには、検索機能で数式を対象に「COPILOT(」を探す方法が手軽です。共有フォルダーやSharePoint上に散らばっているブックほど見落としが起きやすいので、9月に入ってから慌てないよう、対象範囲だけでも先に把握しておくと安全です。

まとめ

「=COPILOT()」関数は、AIの応答を表計算の再計算モデルに載せるという意欲的な試みでしたが、正式提供の予定ごと取り下げられ、2026年9月14日で終了します。プレビュー開始からおよそ1年での撤退です。代わりに案内されているCopilotサイドペインは、できることこそ重なるものの、数式としてシートに残る性質は持ちません。既存のブックで使っている場合は、期限までに結果を値へ変換し、依存している業務フローを洗い直しておくのが現実的な対応になります。