Alibabaが動画生成モデル「Wan3.0」の提供を2026年8月24日に始めました。1回の生成で最長30秒、解像度は1080pまで扱えます。入力はテキストや画像に限らず、PDFやスライド、表計算ファイルを渡しても動画が返ってくる設計です。そしてもう1つ、シリーズの看板だった重みの公開が今回は見送られました。

15秒だった上限が30秒になりました

Wan3.0の一番わかりやすい変化は、1回の生成で作れる長さです。前世代のWan2.7は15秒が上限でしたが、Wan3.0はその倍の30秒を1パスで出力します。解像度は最大1080pで、Alibabaは登場人物の細部、空間の配置、動きの一貫性が30秒を通して保たれると説明しています。

動画生成モデルの弱点は、尺が伸びるほど人物の顔つきや服装が途中で変わってしまう点にありました。長く作れることと、長く作っても破綻しないことは別の話です。Wan3.0はここに手を入れたと主張しており、表情の細かな動きを音声に同期させる処理や、複数言語での音声出力にも対応するとしています。

ただし、これらの性能は現時点で第三者による検証を受けていません。数字はすべて開発元の説明にもとづくもので、実際の品質は使ってみないと判断できない段階です。

資料をそのまま投げ込む使い方

入力形式の幅広さも今回の目玉です。テキスト、画像、音声、動画に加えて、Webページやドキュメントも受け付けます。PDFやPowerPointのファイル、表計算のデータをそのまま渡すと、その中身を動画に組み立ててくれます。

この設計が誰に向いているかは、はっきりしています。手元にある提案書や決算資料を短い紹介動画に変えたい部署、つまりマーケティングや広報の担当者です。動画を1本作るために、まず構成を考えて、素材を集めて、編集ソフトを開いて、という手順を踏んできた人にとっては、出発点が「すでにある資料」に置き換わることになります。

もっとも、資料をそのまま動画にできるということは、資料の粗さもそのまま出るということでもあります。この手のツールは、元になる文書がきちんと整理されているほど結果が良くなる傾向があり、Wan3.0だけが例外ということはないでしょう。

1秒0.2ドル、Veo 3.1と比べると

価格は解像度ごとに設定されています。480pが1秒あたり0.05ドル(約8円)、720pが0.1ドル(約16円)、1080pが0.2ドル(約32円)です。1080pで1分作ると12ドル(約1,900円)、最長の30秒なら6ドル(約950円)という計算になります。

※1ドル159円、1元23.7円換算(2026年8月24日時点)

比較対象としてよく挙がるのがGoogleのVeo 3.1で、標準サービスの価格は1秒あたり0.4ドル(約64円)です。単純な秒単価では、Wan3.0の1080pはその半分に収まります。生成AIの動画は1本試すたびに費用がかさむため、この差は試行回数に直結します。何度も作り直して当たりを探す使い方をするなら、単価の低さは体感しやすいはずです。

利用にはModel StudioとQwen Cloudでの申請が必要で、誰でもすぐに使える状態ではありません。一般向けにはwan.videoというサイトが用意される予定ですが、こちらも会員制になると案内されています。

重みを公開しない、という選択

Wanシリーズはこれまで、モデルの重みを公開することで開発者の支持を集めてきました。手元の環境に持ち込んで改造できることが、このシリーズを選ぶ理由になっていたわけです。Wan3.0はその路線から外れ、重みは非公開のまま、クラウド経由のサービスとして提供されます。

背景にあるのは収益化です。オープンな公開はブランドと利用者を増やしますが、そこから直接お金が入ってくるわけではありません。開発費が跳ね上がっている今、Alibabaは配布よりも課金を選んだことになります。同じ判断は他社でも起きており、公開と非公開の線引きは、性能が上がるほど手前に引かれる傾向があります。

1兆円規模の増資と、その使い道

Wan3.0の発表は、香港での102億ドル(約1兆6,000億円)の株式売却の直後に置かれました。調達した資金はAI投資に充てるとされており、今回の発表はその方針を具体的な製品で示した形です。

数字を見ると事情がわかります。2026年6月期のクラウドとAIの売上は前年同期比45パーセント増の484億4,000万元(約1兆1,500億円)まで伸びました。一方で四半期の純利益は75パーセント減っています。設備投資が676億8,000万元(約1兆6,000億円)まで膨らんだためです。

Alibabaは2025年初頭に、3年間で3,800億元(約9兆円)をAI基盤に投じると表明しており、これを4,800億元(約11兆円)へ引き上げるとの報道も出ています。売上は伸びているのに利益が落ちるという構図は、AI競争に参加し続けるための入場料がいかに高いかを示しています。Wan3.0を有料のクラウドサービスとして出し、重みを閉じたのも、この収支と切り離しては考えにくい判断です。

まとめ

Wan3.0は、1回で30秒・最大1080pの動画を作れるAlibabaの新しい動画生成モデルです。PDFやスライドを入力にできる点が実務では効いてきそうで、1080pで1秒0.2ドルという価格はGoogleのVeo 3.1の半分に収まります。ただし性能は第三者検証を経ておらず、重みも非公開になりました。オープンさで支持を集めたシリーズが、収益化のフェーズに入ったことがはっきりわかる一手です。