OpenAIは、新しい大規模言語モデル群「GPT-5.6」の一般提供を7月9日に開始しました。旗艦の「Sol」、日常業務向けの「Terra」、低価格で高速な「Luna」の3モデルで構成され、ChatGPT、法人向けのChatGPT Work、コーディング支援の「Codex」、そして開発者向けのAPIに順次展開されます。先月末から続いた限定プレビューを経ての正式提供で、米商務省の審査を通過したことで幅広い利用が解禁されました。ここでは3モデルの違いと、公表された性能・料金の要点を整理します。
用途で選ぶ3つのモデル
GPT-5.6は、性能と価格の異なる3段構成をとります。最上位の「Sol」は、コーディングや調べ物、資料作成、サイバーセキュリティ、科学分野まで幅広く最高水準の結果を狙う旗艦モデルです。中位の「Terra」は日々の実務をバランスよくこなす位置づけで、最下位の「Luna」は応答が速く費用を抑えたい場面に向きます。
OpenAIによると、Solは従来のフロンティアモデルよりも少ないトークン(文章を処理する最小単位)で同等以上の成果を出せるといい、支払う費用あたりの性能が高まった点を強みに挙げています。1つの賢い巨大モデルを万能に使うのではなく、仕事の重さに応じてモデルを選び分けられるようにした、というのが今回の設計思想と言えそうです。
ベンチマークで示した性能
性能の裏づけとして、OpenAIはいくつかの指標を公表しています。長時間に及ぶ専門的な作業の遂行力を測る「Agents' Last Exam」では、Solが53.6パーセントを記録し、Anthropicの「Claude Fable 5」を13.1ポイント上回ったとしています。中位のTerraもFable 5を大幅に低いコストで上回り、下位のLunaはコーディング作業でClaude Opus 4.8を上回りながら、費用はおよそ4分の1に収まるという主張です。
もっとも、これらの数値はいずれもOpenAI自身が公表したものです。実際の使い勝手は扱うタスクや条件によって変わるため、第三者による検証も踏まえて受け止めるのが妥当でしょう。
開発者向けに増えた仕掛け
開発者向けには、複雑な作業を速く片づけるための機能が加わりました。目玉は「ultra」と呼ばれる設定で、4つのエージェントを並行して動かし、手分けして課題に当たらせる仕組みです。
もう1つが、API上で使える「Programmatic Tool Calling」です。これは、外部ツールの呼び出しを1回ずつ開発者側へ戻すのではなく、モデルが軽量なプログラムをその場で書いて実行し、複数のツールを束ねたり途中結果を絞り込んだりできるようにする機能です。やり取りの往復を減らせるため、手順の多い自動化を組みやすくなります。あわせて、複数エージェントを扱う新しいベータ機能も用意され、ultra相当の連携を自分で組み立てられるようになりました。
サイバー能力の強化と、それゆえの制限
GPT-5.6は、これまでで最も強力なサイバーセキュリティ能力を備えたとされ、攻撃可能性を測る指標「ExploitBench2」では73.5パーセントを記録したと説明されています。
強力さは諸刃の剣でもあります。OpenAIは、最も高いサイバー能力を持つモデルへのアクセスを「Trusted Access for Cyber」という枠組みで絞り込む方針です。対象となる利用者は、9月1日までにハードウェアベースのパスキーを用いた「Advanced Account Security」を有効にしないと、これらのモデルを使い続けられなくなります。能力の高いモデルを悪用や乗っ取りから守るため、利用側にも一定の安全設定を求める形です。
資料作成にも広がる守備範囲
コーディング以外では、資料づくりの質が上がった点が強調されています。GPT-5.6は、見本となるスライド一式からレイアウトや書体、余白、配色、スライドマスターの決まりごとといった「デザインの型」を読み取り、それを新しい資料にも一貫して当てはめられるといいます。プレゼン資料や文書、表計算の仕上がりが整いやすくなるわけです。
さらに、画面を操作する「コンピュータ操作」の能力も高まり、モデルが自ら描き出した結果を点検して、見た目や動作の不具合を最終的な提出前に見つけ直せるようになったとしています。
提供範囲と料金
GPT-5.6ファミリーは、24時間かけて世界へ順次展開されます。APIの料金は100万トークンあたりで設定され、Solが入力5ドル(約810円)・出力30ドル(約4,860円)、Terraが入力2.50ドル(約405円)・出力15ドル(約2,430円)、Lunaが入力1ドル(約162円)・出力6ドル(約970円)です。利用できる範囲は、ChatGPTや ChatGPT Work、Codex、APIといった契約プランごとに異なります。
※1米ドル=162円換算(2026年7月10日時点)
なお旗艦のSolについては、専用チップを手がけるCerebras上で毎秒最大750トークンという高速な提供も予定されており、応答の速さを重視する用途への広がりも見込まれます。
まとめ
GPT-5.6は、1つのモデルを万能に使う発想から、仕事の重さに応じてSol・Terra・Lunaを選び分ける発想へと、提供の形を切り替えた点が特徴です。ベンチマークの数値はいずれも自社公表であり鵜呑みは禁物ですが、コーディングや資料作成、サイバー分野での実力と価格の両立を前面に押し出しています。並列エージェントやプログラム的なツール呼び出しといった開発者向けの仕掛けが、実際の業務でどこまで効くのか。今後の第三者検証と現場での使われ方に注目が集まりそうです。
