NVIDIAが、ロボットや自動運転車といったフィジカルAIの土台としてオープンなワールドモデルを推す姿勢を改めて示しました[1]。中心にあるのは重みを公開したモデル群のCosmos 3で、日本の製造業やロボットメーカーも参加するCosmos Coalitionの拡大とあわせ、開発現場での使われ方が見えてきています。
ワールドモデルが必要になる理由
フィジカルAIに求められるのは、見た目を認識することではなく、次に何が起きるかを予測することです[1]。ワールドモデルは物理環境がどう振る舞うか、次に何が起こりうるか、どの行動が理にかなうかを学習し、物理的に筋の通った世界と行動のデータを生成したり、未来の状態をシミュレーションしたりします。
現場でこれが効いてくるのは、学習データの集めにくさがあるからです[1]。フィジカルAIに必要な規模のデータ収集は手間も費用もかかり、めったに起きない事象や裾野の広いレアケースは、安全に何度も再現すること自体が難しくなります。ワールドモデルを使えば、天候や照明、物体、軌跡を変えた多様な環境を用意でき、そこから自社のロボットやセンサー構成に合わせて調整していく出発点が手に入ります。
そして、この「自社向けに調整する」という部分がオープンであることの意味に直結します[1]。汎用モデルは特定のチームのロボットやセンサー、稼働環境を見たことがありません。その差を埋めるには重みへのアクセスと、改変を許すライセンス、後学習のためのツールが要ります。NVIDIAのCosmosワールド基盤モデルはLinux FoundationのOpenMDW 1.1ライセンスで提供されており、各社が自前のデータとハードウェアで後学習できる形になっています。
なお、7月にNVIDIAは200を超える企業・団体とともに「Open Weights and American AI Leadership」と題した公開書簡に署名しています[1]。AIの主導権は単一のフロンティアモデルではなく、オープンなエコシステムがあらゆる産業に届くかどうかで測られる、という主張です。
Cosmos 3は視覚推論・世界生成・行動予測を1本にまとめたモデル
Cosmos 3は、mixture-of-transformers(複数の専門家モデルを組み合わせる構成)で作られたオープンなフィジカルAI基盤モデルです[1]。視覚推論、世界生成、行動予測を1つのモデルファミリーに統合しており、場面の理解、合成データの生成、未来状態のシミュレーション、そして世界行動モデルの土台まで、機能ごとに別々のモデルを組み合わせて保守する必要がなくなるという設計です。
ラインナップは3つに分かれます[1]。高精細な世界モデリング向けの640億パラメーターのCosmos 3 Super、効率的な推論と後学習に向く160億パラメーターのCosmos 3 Nano、そしてオンデバイスの視覚推論とロボット制御向けの40億パラメーターのCosmos 3 Edgeです。Edgeはエッジ向けGPUでも動く軽さで、NVIDIA RTX GPU、NVIDIA DGXシステム、Jetson Thorを含むNVIDIA Jetsonに展開できます。
ベンチマークの成績も示されています[1]。オープンウェイトのtext-to-imageとimage-to-video生成でArtificial Analysisの1位、世界生成のPAI-Bench、Physics-IQのimage-to-video部門でも1位、ロボットの行動方策ではRoboLabで1位としています。視覚理解のVANTAGE-BenchではCosmos 3 Superがオープンモデル中の最上位に位置付けられています。
モデル単体では完結しない部分は周辺のライブラリが埋めます[1]。NVIDIA Agent Toolkitに含まれるOmniverseライブラリはシミュレーション可能な環境を組み立てる機能をあらかじめ用意し、OpenUSDが3Dデータをデジタルツインやシミュレーション、合成データ生成の間でやり取りするための共通の枠組みを担います。アセットやセンサー設定、環境条件を変えるたびに同じ作業を繰り返す、という無駄を減らす狙いです。フィジカルAIのスタックとしては、ほかにロボット向けのIsaac GR00T、自動運転向けのAlpamayo、ビジョンAI向けのMetropolisが並びます。
採用企業と、日本へ広がったCosmos Coalition
すでに業種をまたいだ採用例が挙がっています[1]。ロボット分野ではDoosan Robotics、LG Electronics、SAMSUNG、Skild AI、自動運転ではLi Auto、Xiaomi、Afari、産業向けやスマートスペースのビジョンAIエージェントではCentific、Fogsphere、Linker Vision、Milestone Systems、Yuanといった顔ぶれです。
日本勢の動きは7月15日の発表にまとまっています[2]。ワールドモデルの開発者やフィジカルAI企業が集まるCosmos Coalitionに、AIRoA、クラスメソッド、Enactic、ファナック、富士通、GROOVE X、日立製作所、Honda R&D、川崎重工業、クボタ、三井物産、三菱商事、Mujin、NEC、Preferred Networks、ソフトバンク、ソニーグループ、Telexistence、TIER IV、TRON、Turing、安川電機が参加の意向を示しています。参加各社はCosmosのオープンモデルやデータ整備用ライブラリ、データセット、フレームワークを利用でき、工場や物流網、農地、建設現場、病院、道路、住宅といった領域で導入前の検証と最適化を回し、開発期間を縮めることが狙いです。
具体的な取り組みも動き始めています[2]。富士通はファナック、安川電機、川崎重工業とフィジカルAIの事業機会を検討しており、NVIDIAのフィジカルAIスタックを組み込んだ協調制御プラットフォームの構築を目指しています。NEC、日立製作所、オムロン、Preferred Networksはワールドモデルや産業AIの研究開発にCosmosを使い、ソフトバンクはCosmosとOmniverse、Isaac Simを基盤にしたフィジカルAI開発プラットフォームを開発中です。クボタは自動化農業への応用を、Telexistenceは小売の自動化への適用を探っています。
Cosmos 3 EdgeはNemotronをベースにした40億パラメーターのモデルで、オープンなCosmosフレームワークを使えば特定のロボットや車両、センサー、環境に合わせて1日程度で適応させられるとしています[2]。
まとめ
オープンなワールドモデルは、フィジカルAIの開発でどうしても必要になる「自社の機材に合わせ込む」工程を成立させるための現実的な選択肢になりつつあります。Cosmos 3はベンチマークの数字とラインナップの幅を揃え、Omniverseとの組み合わせで検証環境まで含めて提供する形を取りました。日本の製造・ロボット企業がまとまって参加した以上、実際にどこまで開発期間が縮むのかが次の見どころになりそうです。
[1] https://blogs.nvidia.com/blog/open-world-models-physical-ai/
