Microsoftが、ExcelやOutlookなど一部の機能で使うAIを、これまで頼ってきたOpenAIやAnthropicのモデルから、自社開発の「MAI」モデルへ切り替え始めたと報じられています。まだ全面的な移行ではなく、コストやデータの扱いの面で有利な場面に限って自社モデルを差し込む段階ですが、長年かけて築いた外部依存を少しずつ薄めていく動きとして注目されています。
ExcelとOutlookで自社モデルが動き始めた
報道によると、Excelの表計算やOutlookのメール関連機能では、毎週数万件規模のAIへの指示(プロンプト)が、すでにMicrosoft内製のMAIモデルで処理されているとされます。とはいえ、これは一気に置き換える性質のものではありません。同社のAIアシスタント「Copilot」全体で見れば、実際の処理の大半は引き続きOpenAIとAnthropicのモデルが担っており、MAIはコスト効率やデータの保管場所といった条件が見合う部分にだけ入り込む形です。
自社のAzure基盤の上で動かせば、外部に支払う費用を抑えられます。Microsoftは、コンサルティング会社のMcKinsey向けに調整したあるMAIモデルが、コスト効率でOpenAIのGPT-5.5を10倍上回ったと説明しています。派手なベンチマーク争いよりも、数億規模とされるOfficeやTeamsの利用者に届く「配信力」を武器に、処理の一部を自社モデルへ寄せるだけでも動く金額は大きい、という発想が背景にあります。
Build 2026で公開した7つのMAIモデル
MAIは単発のモデルではなく、シリーズとして育てられています。Microsoftは開発者会議「Build 2026」で、推論・コーディング・画像生成・音声・文字起こしといった領域をカバーする7つのMAIモデルを公開しました。文字起こし用の「MAI-Transcribe-1」はTeamsやCopilotで試験的に動かしており、画像生成の「MAI-Image-2」はBingやPowerPointへの組み込みが進んでいます。開発者向けの「GitHub Copilot」では、AI支援コーディングにMicrosoftの自社モデルを選べるようにもなりました。今後は自社の音声文字起こしモデルをTeamsなどへ広げていく計画です。
独占契約の見直しが生んだ「3方向の保険」
Microsoftがこうした内製化に踏み出せた背景には、OpenAIとの関係の変化があります。かつての契約では、Microsoftが独自に最先端AIを追いかけることは制限されていました。しかし2025年に両社が契約を結び直したことで独占的な関係が解かれ、Microsoftは自前の競合モデルを開発できるようになりました。OpenAIの技術を使うライセンス自体は2032年まで維持しつつ、縛りだけが外れた格好です。この見直しは双方に効き、OpenAI側もAWSなど他社経由で自社モデルを販売できるようになりました。
結果としてMicrosoftは、OpenAIへの大きな出資、CopilotへのAnthropic製「Claude」の組み込み、そして自社のMAIという3つの選択肢を同時に抱える「3方向の保険」を敷いています。どれか1つに全面的に賭けるのではなく、用途ごとに最適なモデルを使い分けられる体制を整えたといえます。
なぜ今、内製化を急ぐのか
CEOのサティア・ナデラ氏は、特定のパートナー1社に頼りすぎると「次のIBMになりかねない」と危惧してきたと伝えられています。モデルを借りるのではなく自ら持つことが、その運命を避ける道だという考え方です。AI部門を率いるムスタファ・スレイマン氏も、6月にAnthropicへの支出をMAIの活用によって減らそうとしていると語っていました。
外部のAIにかかる費用は決して小さくなく、機能を1つ内製化するたびにその請求額は削られます。かつてMicrosoftのAI戦略の象徴だったOpenAIとの提携は、モデルを1つずつ差し替えながら、静かに組み替えられつつあります。
まとめ
Microsoftは、ExcelやOutlookの一部機能で外部モデルから自社のMAIへの切り替えを始め、コスト効率やデータ管理で有利な場面を中心に置き換えを進めています。全面移行ではなくCopilotの主力は依然としてOpenAIとAnthropicが担いますが、数億規模の利用者を持つ強みを生かし、少しずつ自前モデルへ比重を移す狙いが見えます。1社依存を避けるための布石として、今後のOfficeやTeamsでのMAIの広がりが注目されます。
